民主主義を守るために不動産業は必要?

 株主総会で会社側の議案はすべてとおり、取締役候補も8割以上の信任をえて、全員選出された。一方のダルトン側提案の候補者はよくて3割の信任率で2割台の人もいた。

 私は株主総会の翌々日に西田に会ったが、すっきりとした表情をしていた。FMHの株は売らず、引き続き不動産部門の分離を求めていくと発表している。

「清水さんは、不動産部門であげた収益を、メディア部門に投資していくと言っていますが、そもそも不動産というのはきわめて投資効率が悪いんです。売り買いして稼ぐというのではなく、フジの場合は賃貸収入です。そうすると3パーセントの利回り以上にはならない。資本市場では8パーセント以上の利益率がないと失格なんですよ。メディア部門を守るためと言いながら、社員を早期退職でやめさせているじゃないですか」

 これはまったくその通りだと思う。アエラのポッドキャストで、「民主主義を守るためなら、“朝日新聞不動産”で何が悪い!」という回があったが、それは逆。民主主義を守るためにも不動産部門を切り離して、メディアだけで勝負するようとことん考える必要があるということだ。日本の新聞社で唯一持続可能なのは、日本経済新聞とこれまで書いてきたが、その大きな理由のひとつに日経は不動産をもたなかったということがある。

「不動産で賃貸をやるだけなら、AがやってもBがやっても同じですよ。私がオーストラリアで小学校時代、何度も回覧されたVHSで興奮しながら見た『東京ラブストーリー』や『ロングバケーション』は当時のフジテレビでなくてはできなかったコンテンツなんです。なぜ、そこで勝負しないのか、ということなんです」

AERA 2025年7月28日号

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