とはいえ、このモチーフ自体が朝ドラにしてはやや弱く、説得力不足でもあった、という印象は否めない。それこそ、引退した安室はともかく、せめて浜崎を特別出演として引っ張り出すことができれば、もうちょっと熱量を上げられたのにという思いだ。
なお、モチーフの弱さについては、ギャルという文化が一時的かつ一部的な流行にとどまったことが大きい。しかも、朝ドラのメイン視聴者層にはピンと来なかったり、下手をすると違和感を覚えさせたりするものだった。そのぶん、斬新な切り口だったとはいえ、これを軸に朝ドラを作るのはなかなかハードルの高い試みだったのだろう。
「アンパンマン」をとことん活用
そのあたりをいっそう実感させたのが「あんぱん」だったりもする。こちらのモチーフは、いわば国民的文化。子ども時代に漫画やアニメの『アンパンマン』に夢中になった人たちはもとより、子どもや孫と一緒に楽しんだ人たちもいて、日本人の多くがその世界観に親しみを抱いている。
それだけでも大きな強みなうえ、「あんぱん」のスタッフはそこをとことん活用してきた。
まず象徴的なのが、主題歌とともに流れるオープニング映像。最後にアンパンマンを思わせるキャラクターが浮かび上がることについて、チーフプロデューサーはこう説明している。
「一本の光のような線が出てきます。のぶと嵩がしんどい時もつらい時も、一本の線をずっと追い続けたことで『アンパンマン』に結びつくというイメージです」
また、登場人物の名前もなるべく「アンパンマン」由来にするという徹底ぶり。阿部サダヲ扮する屋村草吉が「ジャムおじさん」ならぬ「ヤムおんちゃん」となるところなど、当初は不自然にも思えたが、いつのまにか慣れてしまった。

名台詞もそのまま取り込む
それと同じで「アンパンマン」の名台詞もそのまま取り込む。代表的なのが、「何のために生まれて、何をして生きるのか」だろう。
やなせたかしが作詞した「アンパンマンのマーチ」に出てくる有名なフレーズは、竹野内豊が演じる寛(やなせたかしをモデルとした嵩の義父)の口癖となり、ドラマの世界観をわかりやすく伝えている。