ロシア軍と対峙する前線で取材中の横田徹さん=本人提供
ロシア軍と対峙する前線で取材中の横田徹さん=本人提供
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 極限状態ともいえる戦争の現場には常に「笑い」があるという。なぜ、人は戦場で笑うのか。数々の戦場を取材してきた横田徹さんが語った。

【写真】ロシア兵めがけてドローンから焼夷弾を投下した瞬間

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報道番組のスタジオで「シーン」

 戦場カメラマン・横田徹さんは、ウクライナの戦場を継続して取材してきた。テレビの報道番組に出演する際、たびたび居心地の悪い思いをしたという。

「現地で取材していたときと同じ調子で、スタジオで笑いを交えながら話をすると、ほかのゲストがかたまって、シーンとしてしまうんです」

 戦争という深刻なテーマを取り上げているのだから、笑うのは「不謹慎」--。そんな思いがあったのかもしれない。

 だが、ウクライナの人々が悲しそうな顔や怖い顔をしてロシア軍と戦っているかといえば、全く違うという。

ジョークを飛ばし菓子を食べながら戦う

「不謹慎なジョークをとばしながら、笑いながら戦っている。スナック菓子をほおばり、談笑し、自爆ドローンを操ったりする」

 たとえば、戦場のなかでも取材リスクの高い場所の一つが、ロシア兵と対峙する前線だ。地面を掘った塹壕から外に出るのが危険すぎて、周囲に放置されたロシア兵の遺体を回収できず、それを農家などから逃げ出したブタやネコが食べている悲惨な状況をウクライナの兵から聞くこともある。

 そんな状況下で人が笑う理由を、横田さんはこう分析する。

「塹壕に潜んでいるウクライナ兵だって、いつ目の前にロシア軍の自爆ドローンが現れて、次の瞬間、木っ端みじんになるかわからない。そんな状況で『笑い』がなかったら頭がおかしくなってしまう」

前線を取材できる理由とは

 1971年、茨城県生まれの横田さんは97年のカンボジア内戦をきっかけにフリーランスの報道カメラマンとして活動を始めた。コソボ、アフガニスタン、イラクなどの戦場を取材してきた。2022年2月にロシアが侵攻したウクライナへは、これまでに7回訪れている。

 横田さんのようにウクライナの前線に深く潜り込んで撮影しているカメラマンは、世界的に見ても少ない。ウクライナ軍からの信頼が厚いあかしでもある。というのも、

「ウクライナ軍によると、欧米のメディアは面倒くさがって、撮影した映像をそのままテレビなどに流してしまうことがあるそうです。そうしたメディアには、ウクライナ軍は取材許可を出さなくなる」

前線任務に備えて銃の使い方を習得する25歳の医師=横田徹さん提供
前線任務に備えて銃の使い方を習得する25歳の医師=横田徹さん提供
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