ただ、外国人ドライバーに日本で活躍してもらう上で不可欠な課題は、彼らが日本の高いサービス水準に適応できるのか、という問題だ。このため小林さんは、カンボジアで日本式の運転教育を提供するなど、約10年前から自動車運送業への外国人ドライバー導入を見据え、準備を進めてきた。

「例えば、バス運転手の業務で最も留意しないといけないのは高齢者の利用が多いことです。急に体調を崩す乗客が出た時の対応なども、現地の教育カリキュラムに盛り込んでいます」

 今も月の半分はカンボジアと日本を往復する生活を送る小林さん。「特定技能外国人の認定を受け、運転免許を取得するのがゴールとは考えていない」と話す。

「外国人ドライバーが日本社会に受け入れられるには、事故や接客トラブルもなく、利用者の信頼を積み重ねていく必要があります。そのためには養成段階で運転技術以外の資質も見極め、リスクがあると判断した人材には就職が内定していても企業に取り消しを求めることもいといません」

 そう話した後、苦笑交じりにこう続けた。

「今の日本の世論状況だと、一件でも外国人ドライバーが問題を起こせば、制度の見直しに発展しかねませんから」

 今回の参院選で耳にこびりついているのが、「日本人ファースト」という政治スローガンだ。小林さんはどう受け止めているのか。

「『日本人ファースト』で日本が失うものは、今の生活じゃないでしょうか。海外と日本を行き来すればするほど、日本の生活環境は恵まれていると実感します。外国人材の支えがなくなれば、それはどんどん失われていくはずです。それはより良い生活どころか、今の生活すら失う状況につながると思います」

 病院介護施設の数が減り、そこへ行くバスがなくなり、宅配便はいつまでたっても届かない——。そんな未来をどう食い止めるか。一番の課題は、今の日本の賃金でそれを担ってくれる外国人がどれだけいるのか、という問題かもしれない。

(AERA編集部 渡辺豪)

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