染織家と批評家がおよそ1年半の間に交わした24通の書簡集。巻末に二人の対談と、手紙に紡がれたそれぞれの思索の手がかりとなる引用文集を収める。
 志村はパリのロダン美術館で、「私は霊感などありません。美しいものだけが美しいのではありません。私はただ仕事をするのです。人にはよく仕事をしましたか、と問うだけです」と、リルケがロダンに言われた言葉を思い、立ちつくしたと書く。また、「芸術とは目に見えるものを再現することではなく、目に見えるようにする」とのパウル・クレーの言葉に深く共感する。対する若松は、志村とは孫ほども年が離れるが、言葉は光であると理知的に結ぶ。シュタイナー、柳宗悦、小林秀雄、石牟礼道子などさまざまな人物をめぐり、体験から発せられた言葉の数々を胸に深く刻んだ。

週刊朝日 2017年1月27日号