北海道釧路市の海岸で男性の死体が発見された。被害者は青森市出身の元タクシー乗務員。80歳で生涯独身、身寄りなし。主人公である道警釧路方面本部刑事第一課の大門真由は、定年間近の先輩刑事・片桐と捜査を開始する。
著者のミステリーは謎の究明と共に、事件が起こる瞬間の“魔"を描き出すことに長けている。大門たちは、被害者宅で見つけた北原白秋の詩集、着ていた白い麻のシャツ、歓楽街で働いていた過去など、わずかな糸から事件をひもとき、地道に時に大胆に、被害者と縁が深い女性たちに迫っていく。
 人間の弱さ、哀しさ、残酷さが胸にしみいる中、それでも闇から光が射すような読後感がある。それは大門と片桐が真っ直ぐな魂で人と対峙しているからであろう。昨年11月に柴咲コウ主演でテレビドラマ化された。

週刊朝日 2017年1月27日号