
ジャズ・オルガンの巨人、ジミー・スミスは早くも1966年4月に初来日している。1960年代半ば、東京オリンピックがあった64年こそ来日ジャズ・ミュージシャンは急増したが、ほかの年は十数組にすぎなかった。人気のほどがうかがえるというものだ。2002年10月までに少なくとも17度、1990年代は毎年のように来日している。そんななか、推薦盤は大阪道頓堀にあった複合ビル「キリンプラザ大阪」で収録された。
盟友ケニー・バレル(ギター)、もう一人のジミー・スミス(ドラムス)とのトリオで人気曲を惜しげもなく繰り出していく。ベスト・ヒット曲集さながらだ。バレルの十八番《チトリンス・コン・カーネ》を除いて録音歴があり、5曲にはバレルも参加していた。それまでに数えきれないほど演奏してきたにちがいない十八番中の十八番というわけだ。また、《バック・アット・ザ・チキン・シャック》を除いてこれらが最後の録音になる。
《チトリンス・コン・カーネ》はバレル作のブルース。バレルの名盤『ミッドナイト・ブルー』(Blue Note/1963)の巻頭を飾った名曲で、ジミーは初録音だ。テンポは快速、水先案内か、ソロはバレルが先発、全体の構成にも意を払って端正でブルージーな小品に仕上げる。ジミーは終盤の山場に向けてグイグイ押していく。対照の妙が光る幕開けだ。
《イッツ・オールライト・ウィズ・ミー》はお馴染みのスタンダード。『クラブ・ベイビー・グランドのジミー・スミスVol.2』(Blue Note/1956)が初録音、これが5度目でバレルとは2度目になる。テンポは急速、焦らすようなイントロと愛らしいテーマのあとジミーはめくるめく音を敷き詰めていく。脇に徹するバレルの刻む4ビートが心地よい。
《ジ・オルガン・グラインダーズ・スイング》はブルース形式のジャズ・オリジナル。バレルと組んだ『オルガン・グラインダー・スイング』(Verve/1965)は2度目、これが6度目でバレルとは4度目になる。テンポは快速、痛快にドライヴするバレルとジミーに前へ前へと押されるままに気付けばお仕舞いに。実にノリノリ、もうチト聴きたかった。
《ザ・プリーチャー》はホレス・シルヴァー作。記念すべきデビュー作『ア・ニュー・サウンド・ア・ニュー・スター』(Blue Note/1956)が初録音で、これが4度目になる。テンポは準快速、クールにグルーヴするバレルにホットにグルーヴするスミス、好対照は好相性の証しだ。ほてりを冷ますかのようにジミーがテーマを心安らかに奏して終える。
《オール・デイ・ロング》はバレル作のブルース。バレルと組んだ『ジミー・スミス・アット・ジ・オルガンVol.1』(Blue Note/1957)が初録音だが、1カ月先立つバレルの『オール・デイ・ロング』(Prestige/1956)で知られる。というわけでバレルが前面に。テンポは中速、"ブルージー・バレル"は場をアーシーな藍色で染め上げて遺憾がない。
《アイ・ガット・マイ・モジョ・ワーキン》はプレストン・フォスター作のブルース。バレルと組んだ『ガット・マイ・モジョ・ワーキン』(Verve/1965)のタイトル曲、これが7度目でバレルとは2度目になる。テンポは準急速、ジミーのヤクザっぽいヴォーカルがひとしきり、ジミー、バレルが快調に飛ばしヴォーカルで締める。真っ黒けの熱演なり。
《ジョニーが凱旋する時》はトラディショナル・ナンバー。『クレイジー・ベイビー』(Blue Note/1960)が初録音、これが2度目になる。中速のマーチから急速の4ビートにシフトアップ、先発するバレルはスムースに弾き流しただけの印象でチト物足りないが、ジミーが果敢に攻め立てて一気に駆け抜ける。"ジミーが凱旋する時"はかくもあらん。
《バック・アット・ザ・チキン・シャック》はジミー作のブルース。バレルが参加した同名のヒット作(Blue Note/1960)が初録音、これが4度目でバレルとは3度目になる。テンポは準快速、クリスマス前夜か当夜とあって《サンタが町にやって来る》を引用するジミーも続くバレルもただひたすらにグルーヴ街道を邁進する。推薦盤のハイライトだ。
《ザ・キャット》はラロ・シフリン作のブルース。バレルも参加した同名の人気盤(Verve/1964)が初録音、これが3度目でバレルとは2度目になる。ヒットしてジミーの代名詞になったこれなしに幕は下ろせまい、というわけでクローザーに据えたのだろう。準急速テンポに乗ってジミーが独り快走、過不足なくコンパクトにまとめあげて心憎い。
3分の2がブルースだがテンポやムードを変え飽かせない。ジミーの黒いブルース魂とバレルの青いブルース魂に酔わされる。ドラムスのジミーの堅実なサポートも好ましい。同日収録の続編『ザ・マスターII』は、ほぼバラードやブルーなナンバーで占められる。粒揃いではなく推薦盤に星半分ほど及ばない。ヒット曲を集めた推薦盤で十分だと思う。2013年に再発されている。ジミーのコレクションの最後に加えられるといいだろう。
【収録曲】
The Master/Jimmy Smith Trio
1. Chittlins con Carne 2. It's All Right with Me 3. The Organ Grinder's Swing 4. The Preacher 5. All Day Long 6. I Got My Mojo Workin' 7. When Johnny Comes Marching Home 8. Back at the Chicken Shack 9. The Cat
Jimmy Smith (org), Kenny Burrell (g), Jimmie Smith (ds).
Recorded at KIRIN PLAZA OSAKA, on December 24 & 25, 1993.
【リリース情報】
1994 CD The Master/Jimmy Smith Trio (Jp-somethin'else)
1994 CD The Master/Jimmy Smith Trio (US-Blue Note)
???? CD The Master/Jimmy Smith Trio (Ru-Blue Note)
2013 CD The Master/Jimmy Smith Trio (Jp-somethin'else)
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