写真・図版(1枚目)| 出演者はいつもの1.5倍 獅子舞も登場する正月の寄席 新宿末広亭の「全興行」に通い続ける演芸評論家の記録
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 江戸以来の寄席の伝統と雰囲気を現代に伝える新宿・末広亭。10日ごとにプログラムが替わり、昼と夜とでも異なるから1か月で6番組。1月のみ3部構成なので、1年間で73番組。かつて、73番組全てを見て記録した『新宿末広亭 春夏秋冬「定点観測」』(2000年12月刊)。その著者である演芸評論家・長井好弘氏が、令和の今、再び定点観測に挑む。現役の新聞記者だった当時よりも時間はあるはずだが、体力と気力はどうなのか…? 本連載は、その生々しいドキュメンタリーである。

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 2025年が明けた。寄席の正月は特別興行だ。呼び方からして「特別」だ。普段は1〜10日の興行を「上席」というが、1月だけは「初席」と江戸前(?)で呼ぶ。続く11〜20日は「中席」ではなく「二之席」だ。寄席の世界ではここまでが「正月」で、下旬(21〜30日)になると、「1月下席」と普通の呼び名に戻ってしまう。

人気者ナイツが早くも登場

 番組はオールスターである。正確にいうと、落語協会、落語芸術協会という2団体のいずれかに所属する真打と色物のほとんどが出演する。「スター」は居たり居なかったりだが、限りなく「オール」に近いことは間違いない。

 番組の本数はかなり多い。寄席によっては普段の1.5倍ぐらいの芸人がお目通りする。出演者が多いから、当然、持ち時間は少ない。高座からちょっと目を離してプログラムを見ている隙に、早い出番の若手はあっという間に姿を消してしまう。

 この日も前座は小噺一つ、二ツ目は小噺に毛の生えたような小ネタを演じて、逃げるように帰っていった。高座にいた時間は2人合わせても5分に満たないだろう。

 三番手には、人気者のナイツが早くも登場だ。

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