曲者・A太郎は高座に出ても、なかなか座布団に座らない、頭を下げそうで下げない。場内が妙な空気になりかけたところで、ようやくまくらを語り出す。
「扇子を忘れたので、指で蕎麦を食う仕草をしたら、お客さんに『A太郎さんの指が扇子に見えましたよ』と言われました。箸じゃないのか!(笑)」。
新作「ほれうそ」をサラリと演じた後、帰る時も少し歩いては立ち止まり、何度も客席を振り返り、なかなか楽屋に引っ込まない。場内に醸し出された怪しい空気はしばらく消えそうもない。
正月らしいサービス精神あふれる高座
トリの竹丸は「石田三成」。関ヶ原の戦いで西軍を率いた知将の生涯をベタなギャグ満載で綴りながら、観客を飽きさせない。
「石田三成は永六輔三年(永禄3年)生まれ。秀吉に熱さの違う三杯の茶を出した。大きな器でぬるくて濃い茶、おかわりを所望され、中くらいの器で少し熱くて薄い茶を出す。もう一杯と言われ、小さな器で熱くて薄いのを。これで三成は取り立てられた。お茶を大事にと先生も言ってます。だからティーチャー」
「三成はそろばんが達者でした。一つなり、二つなり、三つなり〜。(客席に向かって)ここが今日の噺のピークですから(笑)」
一席終えて、去年出した歌のCD「落語家の本分」を流し、オリジナルの踊りを披露。さらに手ぬぐい十枚を客席にまいて、深く頭を下げた。いかにも正月のトリらしく、サービス精神に溢れた高座だった。
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