
箱根駅伝で熱狂的なファンが沿道に集結
――青山学院大学が2年連続8度目の総合優勝を果たした今年1月の箱根駅伝。熱狂的なファンが沿道に集まり、中には選手の顔写真が貼られたうちわを持つ人もいました。まるで芸能人の追っかけのようですが、近年、各競技会で「推し」の選手を目当てにした観客の姿が目立つようになっています。それに比例するように、各競技会では派手な入場曲が流れるなど、エンタメ化が進んでいます。このことについて、どうご覧になっていますか。
私が古いのかもしれませんが、真面目な文化があるためか、派手な入場セレモニーなどは正直少しチグハグな感じを受けます(笑)。でも、陸上人気が高まることは歓迎すべきことです。
ひとつ弊害があるとすれば、エンタメ化することで、選手のためにあったはずの競技大会がエンタメのために選手がいるという構図になってしまうということです。箱根駅伝は、大学にとってもメリットが大きく、スポーツメーカーにとっても良い露出の機会となるために、大学生の大会としてはものすごく注目されていますよね。
エンタメ化は若手育成になる一方で懸念も
世界には、30歳を過ぎてオリンピックのマラソンで金メダルを獲得する選手がたくさんいます。35歳以上で国際大会で活躍する選手も少なくありません。しかし、箱根駅伝に出た選手の中には、どんなに頑張ってもあの時の注目を超えられないと苦しむ選手もいます。また、燃え尽き症候群もあるようですね。

――実業団の選手が元日にある「ニューイヤー駅伝」など、会社の看板を背負って走る駅伝のほうが、学生が走る箱根駅伝などより目立たないというのも残念な話です。
学生から社会人(実業団選手など)、プロ選手など陸上競技にはプロ・アマが混在しているというのが特徴です 。メディア露出やエンタメ化によって得られる注目は、競技の発展や若い世代の育成にとって追い風になる一方で、それに見合った環境や教育が整っていなければ、選手に負担がかかることもあります。
スポーツとメディアは切っても切れないので、うまくやるのが一番ですが、今は選手個人が対応しているのが現状ですね。陸上界としても、プロでいくのかアマでいくのか態度をはっきりし、それに沿った制度や支援態勢を構築していくことが重要なのだと思います。
「ここからが始まりだ」と選手が思うような大会になればいいですね。選手も観客もお互いを信頼し合い、そのうえで競技が成り立つ――そんな“相互信頼”が保たれた大会になってほしいですね。
(AERA編集部・大崎百紀)
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