だから新興EVメーカーは優位に立てた

 ところがEVなら一種類のモーターを使い、部品点数も少なくなる。ソフトウエアでハードウエアの性能範囲を広げることもできる。EVならば少数の大きな部品の組み合わせでフロアをつくることができるようになったのです。

 伝統的な自動車メーカーはすでに出来上がった設備やサプライチェーンなどを抱えているので、革新的な製造技術を導入することには躊躇しがちです。一方、新興メーカーは大胆な発想で製造ラインを変革できたのです。

 ――いわば過去のしがらみに縛られて、新しい技術の導入に遅れを取ったと言えますね。

 志賀 EVは多くの電池を積んでいるので車体重量が重い。したがって軽量な材料を使おうと努力します。これまで鉄を使っていた部分にアルミニウムやマグネシウムを使って軽くする試みを中国の新興EVメーカーなどが進めています。日本勢はEVを市場にあまり出していないので、そういった新しいクルマづくりのチャレンジにも出遅れが現れてくるのではないかと心配しています。

「ホンダとの統合を断るべきではなかった」

 ――いろんな危機感をお持ちなのですね。

 志賀 ホンダの三部敏宏社長は日産自動車との統合協議が破談した際に、SDVで連携したかったと残念がっていました。ホンダにはSDVの時代になるとOSも作らなければならず、そのためには仲間を増やさないといけない、という危機感があったのだと思います。

 その危機感は当然のものなのですが、破談を選択した日産にはその危機感があまりなく、見て見ぬふりをしていると私には見えました。古巣の経営判断を批判したコメントがメディアで紹介されましたが、日産は単独で生きていくのは厳しく、ホンダとの統合を断るべきではなかったと思っています。

 つまり伝統的自動車メーカーの経営体制とか意思決定のあり方、開発部門をみると機械工学科出身が8割ぐらいを占めている組織では、テスラやBYDといったソフトウエア開発者を多く抱えた新興自動車メーカーにいまさら追いつけないほどの差をつけられてしまっているのではないかという危機感が私にはあります。

(安井 孝之:Gemba Lab代表、経済ジャーナリスト)

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