今までの作り方では通用しない

 ――とはいえスマホのようにほぼデジタル部品の塊のような商品と、車体やタイヤなどハードウエアが乗り心地を決定づけるクルマとが同じ運命になるとは思えないのですが。

 志賀 これからはクルマだけじゃなくて、あらゆる工業製品が通信で繋がって、ハードウエアを動かすソフトウエアがアップデートされていきます。

 ご存知のようにすでにテスラは、FSD(フルセルフドライビング)という運転支援機能サービスなどをクルマの購入時に利用していなくても、ソフトウエアをアップデートして、使えるようになる課金システムを新しいビジネスとして始めています。そうなるとハードウエアのつくり方が変わってきます。

 ――どう変わりますか?

 志賀 スマホの場合を例にとると、今売られているiphone16が発売されても、1世代前のiphone15の中古でも1台10万円以上するそうです。使われているカメラなどのハードが若干違っても、最新のソフトウエアをダウンロードすればほぼ同じ機能が使えます。

 クルマも同じことが起きます。これまでのクルマは新しい機能が欲しくても、次のモデルが発売されるまで待たねばなりませんでした。しかしソフトウエアをアップデートして、今のハードウエアに新しい機能を付けられるようになると、次のモデルを買わなくてもいい。ユーザーにとってはいいことだと思いますが、メーカーにとっては大変なことです。

 ソフトウエアの進化はハードウエアの進化よりも早く進んでいきます。4、5年のモデルサイクルで開発していた伝統的な自動車メーカーがソフトウエアの進化のスピードについていけるかが心配です。

なぜ日本車メーカーは海外勢に後れを取ったのか

 ――クルマの価値を決定するソフトウエアが質量ともに増えていくと当然、バグが増えます。伝統的な自動車メーカーのものづくりは、ハードもソフトも欠陥のないバグゼロを目指すものだと思いますが、それでは対応できないということですね。

 志賀 IT系の会社には発売時にバグがあっても、ソフトウエアをアップデートして改善すればいいという考え方があります。もともと電池メーカーだったBYDがすごいスピードで新車を出せるのは、販売後に不具合が見つかったらアップデートすればいいという考え方だからです。米国のテスラも発売の直後からバグ直しを始めています。

 ところが伝統的な自動車メーカーのクルマはすべてがコネクティッドされているわけではないので、リモートでソフトウエアをアップデートできません。エンジニアはバグがゼロにならない前には怖くてクルマを市場に出せないわけです。開発期間はどんどん伸びていきます。

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