みうらじゅんさんの近著『アウト老のすすめ』。同著で「老いるショック」のワードが出てくる箇所に付箋を貼ってみた。見守るのは、オンライン取材が途切れた直後にソファに嘔吐した自宅の老ネコ(撮影・渡辺豪)
みうらじゅんさんの近著『アウト老のすすめ』。同著で「老いるショック」のワードが出てくる箇所に付箋を貼ってみた。見守るのは、オンライン取材が途切れた直後にソファに嘔吐した自宅の老ネコ(撮影・渡辺豪)

「この連載で考えついたのは、編集部の人が投稿者のたくさんの『老いるショック』の中から選んで採用したエピソードに対して僕がコメントする形式でした。掲載された人には肌に塗るオイル(「老いる」とかけた)をプレゼントしています。商品がもらえるとなると、読者も自らの『老いるショック』に面白みを見いだして、『ウケるエピソード』を送ってくるに違いないと思ったんです。これって僕が深夜ラジオのDJ役で、投稿する方たちは『ハガキ職人』のようなもの。深刻ぶって悩んでいたことが、書くことでコントに思えてくる」

 今のシニアはラジオの深夜放送で育った世代。たしかにこの関係性は、シニアにとっては懐かしく、なじみやすいスタイルかもしれない。

「だって、老いるのは誰しもしょうがないことですから。エンタメにしてしまえばと思いました。すぐに大声で怒鳴る人とか、年取って周りに気を遣わなくなって言いたい放題の人って、やっぱつまんなくないですか。周りも迷惑ですし。ウケ狙いがないからですよね。馬鹿野郎って叫んでる人、例えば、馬鹿野郎を敬語にしてみるとか。『馬鹿野郎でございます』と言えば、かなり見え方が違ってくる。僕もずっとウケ狙いでいろんなことをネタにして生きてきましたけど、老人たちが『ウケる老いるショック報告』にしのぎを削るようになれば、少しは明るくなんじゃないかなと」

 トレードマークのサングラス姿に立派なひげを蓄え、紫煙をくゆらせながら独特のリズムで語るみうらさん。ひげには白いものも交じる。老子のようにも見えるこの外見。発言に説得力を感じるのも、この「老けづくり」が一役買っているのだろうか。そもそも「老けづくり」にはまったのはコロナ禍のころだったという。

「コロナ禍で老けづくりを始めようと思った時に、あまり髪の毛に白髪がないことにパンチがなくて、どうしたらいいんだろうかと思って。それでひげを伸ばしてみると、鼻毛、ひげ、下の毛と続くフロントラインには白髪が交ざってることに気づきました。老けづくりするのは、やっぱ年取ってからですよね。若づくりしちゃうとせっかく老けたことの意味がないですからね」

「老けづくり」は世に蔓延する「アンチエイジング」の風潮に抗ってのことなのだろうか。

「アンチエイジング、あるわけがないことで物を売ってる人のための言葉ですよね。それにまんまと引っかかるか、疑ってかかるか。僕はずっと、自分が普通の老人になれる自信はなかったし、その前の『親父』っていう時代もなんかしっくりこなくて。『おーい、そこの親父』って誰かに後ろから言われても、たぶん振り返らなかったと思うんですよ、自分がピンと来なかったから。だから、老人になるとみんなが、昔懐かしいジイさんになるとは限らないと思ったんですよね」

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