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 子どもの登校時間より早く親が出勤する場合、子どもをどこに預ければいいのか――。小学校入学時に起こりがちな「朝の小1の壁」問題だが、5月に公表された国の報告書によると、小学生の朝の居場所づくりを実施、または検討している自治体はわずか3%。約1億円をかけて対策を実施するものの利用低迷に悩む自治体もある。いったい何が起こっているのか。

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登校前に出勤しなければならない親たち

「おはようございまーす」

 午前7時半を過ぎると、小学生を連れた保護者が次々にやってきた。保護者は神奈川県大磯町の朝の子どもの居場所づくり事業のスタッフに児童を引き渡すと、足早に去っていく。

 50代の女性は、これから1時間かけて勤務する学校へ向かうという。

「ここがなかったら、毎日、1時間の休みをとらなくてはならない。生活に困ってしまう」

 隣の平塚市で働く40代の女性は、「始業時間が8時半なので、結構ギリギリです。ここで子どもを預かってもらえなかったら、勤務時間を変えなければならない。本当にありがたい」と話し、車に乗り込んだ。

小学校へ登校前、児童を預ける保護者。神奈川県大磯町=米倉昭仁撮影

 横浜市に勤務する40代の男性は、始業時間は9時だが準備作業のため早めに出勤しなければならないという。

「子どもが小さなうちは、家に置いて出るのは心配。ここがあるから安心して仕事に行ける」と男性は語り、そばにあるJR大磯駅に急いだ。

「1時間」の大きな壁

 町立大磯小学校の敷地内で実施する朝の子どもの居場所づくり事業の朝の風景だ。大磯町は全国に先駆けて10年前から「朝の小1の壁」の解消を目指してきた。

 保育所の多くは、午前7時から子どもを預けられる一方、小学校の登校時間は、それよりも遅い午前8時ごろが多い。たとえ1時間程度の差であっても働く保護者にとっては大きな問題だ。

 大磯町が神奈川県のモデル事業として、町内2つの公立小学校で「朝の子どもの居場所づくり」を行ったのは2015年度だ。

「保護者のニーズがあったので、モデル事業が終了した後も町が事業を継続し、現在にいたっています」と、同町子育て支援課の担当者は説明する。

 利用には事前登録が必要で、原則、保護者が子どもを送り届ける。19年度の町内2つの町立小学校を合計した登録者は40人だったが、24年度には約120人と、約3倍に増えた。

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