午前7時半を過ぎると、児童を連れた保護者が訪れる。神奈川県大磯町=米倉昭仁撮影

 一方、こども家庭庁が5月9日に公表した「朝の小1の壁」対策の調査結果によると、回答のあった1017自治体のうち、「(対策を)実施している」は14(1.4%)、「実施に向けて検討中」は17(1.7%)だった。

「実施していない(未検討)」「実施に向けて検討中」の自治体に複数回答で課題を尋ねると、「居場所運営に従事する人材の確保が難しい」が70.0%と最も多かった。

1時間未満の人材確保に課題


 東京都八王子市も三鷹市と同様の「朝の小1の壁」対策を23年度から行っているが、やはり「人材確保が課題」だという。八王子市には70の市立小学校(義務教育学校を含む)がある。朝の校門開放を3校から開始し、今では10校に増えた。午前7時半から学校が始まるまでの約45分間、校庭の児童を地域の有償ボランティア2人が見守る。

 今年度は実施校を16まで増やす予定だったが、10校にとどまった。同市放課後児童支援課の担当者は、こう説明する。

「児童の朝の見守りは1時間に満たない。その短い時間のために、遠くからボランティアに来てもらうわけにはいかない。その地域に見守りを担える人がいないと難しい」

利用実績のない学校も

 仕組みを作ったものの、利用が低迷している自治体もある。

 大阪府豊中市は昨年度から全39の市立小学校(同)で校門の開門時間を午前8時から午前7時に1時間早めた。この間、児童は体育館や多目的室で過ごす。豊中市は今年度、この事業に約9800万円の予算をあてるが、昨年度の1校当たりの1日平均利用者は2.25人。利用実績のない学校も1校あった。

 利用低迷の原因について、同市教育委員会の担当者は、「事業が子育て世帯に周知されたのが昨年3月で、すでに会社との勤務時間の調整がすんでいたことが一因では」と語る。

 昨年6月に同市が行った「午前7時からの小学校見守り事業」アンケートによると、利用していない主な理由は、「万が一の早朝出勤などに備えて事前登録したが、利用する機会がない」は72.2%、「利用の要件である付き添いができないため」は12.0%だった。

「『何かあったときに利用する』という、保護者の不安解消にはつながっている。ただ、利用がなかった学校については、継続するのか、考えなければならない」(同市教育委員会の担当者)


 前出の高久教授によると、学童保育を充実させるコストは、0歳児の保育と比べて「大幅に安価」だという。

 女性の就労率の低下は経済にとって大きなマイナスだが、それに対して、「『小1の壁』を解消する取り組みのコスパは非常によいと思います」(高久教授)

 こども家庭庁は、今年度から朝の居場所を設ける自治体に最大500万円の補助金を出す。「朝の小1の壁」解消を後押しすることになるのか。多くの地域が、先行自治体の施策を注視している。

(AERA編集部・米倉昭仁)

こちらの記事もおすすめ 中学校「プール授業」廃止の陰に「見られるのがイヤ」などジェンダー問題 立ち返るべき「本来の目的」とは
[AERA最新号はこちら]