児童を送り届ける保護者に男性も少なくない=米倉昭仁撮影

 同町から朝の子どもの居場所づくり事業の運営を委託されている株式会社「明日葉」の職員は、「『朝、子どもを預かってくれるので、大磯町に引っ越してきた』と言う方もいます」と話す。

 子どもたちはトランプやブロックおもちゃで遊んだり、読書をしたりして自由時間を過ごす。それをスタッフ3人が見守る。8時半前、子どもたちは隣の校舎に登校していく。

職員に見守られ校庭で過ごす


「朝の小1の壁」解消に取り組む自治体は他にもある。事前登録も、保護者が児童を送り届ける必要もないのが東京都三鷹市だ。

 23年度から市内全15の小学校で開門時間を午前7時半とし、学校が始まる8時15分まで、子どもたちは校庭で過ごす。同市のシルバー人材センターの職員2人が各校で子どもたちを見守る。

 今年1月の平均利用者数は、多い学校で約160人/日、少ない学校でも約20人/日だった。保護者の働き方とは関係なく、朝、友だちと遊ぶために来る子も少なくないという。

「雨の日は、屋根のある昇降口や渡り廊下で子どもたちは座って、楽しそうにおしゃべりをしています」(同市教育委員会の担当者)

転職・退職の9割以上が母親

「朝の小1の壁」の影響は深刻だ。

 一橋大学経済学部の高久玲音(たかく・れお)教授の研究によると、長子が小学校に入学すると、母親の就労率は10.5%低下するという。

「政策的に母親の就労率を10.5%上げるのは大変なことですが、それとは逆のことが小学校入学時に起きている」と、高久教授は指摘する。

 埼玉県では実態を把握するため、昨年秋、県内の公立小学校に子ども(1年生と4年生)が通う保護者を対象にアンケートを実施し、2万8673人から回答を得た。

 子どもの登校時間に合わせるために「働き方を変えた」と答えた人は6047人(21.1%)。そのうち、「勤務時間を調整してもらった」は53.5%(複数回答、以下同)、「転職した」は31.1%、「在宅勤務など勤務形態を調整してもらった」は11.6%、「退職した」は5.8%だった。転職や退職をしたと回答した人のうち、母親は9割以上を占めた。

「平日朝、児童を預かる場所があれば利用したいか」という問いには、「利用したい」と21.6%が回答した。

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