黒ひげ危機一発誕生50周年のロゴ(© TOMY)
黒ひげ危機一発誕生50周年のロゴ(© TOMY)

「そんな『不安の時代』においては、剣で縄を断ち切ってしまうことは良きことではない、悪です。だから今度は『負け』になるわけです」

 では、2025年に「原点回帰」したということは、時代精神も1975年頃の「不満の時代」に回帰したからなのか。土井さんは「そうではなく、今度は私たちの『視座』が変わったんです」という。

「『黒ひげ危機一発』が発売された1970年代から2000年代に入った頃までは、私たちはまだ、縄を断ち切る海賊の親分の側、つまり他者の側を見ていました。なぜなら、自分の側には『別のストーリー』があったからです」

 右肩上がりの時代、私たちにとって最もリアリティーのあるゲームは「すごろく」だった。自分の人生を積み上げていき、最後に「上がり」に到達する。このストーリーが人生観を表す、まさに「リアルなゲーム」だった。

開発当初のスケッチ(© TOMY)
開発当初のスケッチ(© TOMY)

「対して、『黒ひげ危機一発』は『お遊び』でした。だから私たちは『海賊の親分の方』を見ていた。そして縄を断ち切ってあげることが解放になったり、不安につながったりしてきた。でもいまの時代、私たちは『黒ひげ危機一発』で遊ぶときに刺す海賊の親分ではなく『自分の方』を見るようになった。なぜか。そこにリアリティーがあるからです」

 いまの時代、かつてのように人生を積み上げて積み上げて、成功に至るといったストーリーにリアリティーがなくなった。たとえば株や投資で一発当てるか。YouTuberやVTuberとして一発当てるか。何が当たりで何が外れかは、ストーリーの積み重ねではなくまさに「ギャンブルや偶然性の世界」へと変わってきた。そんな背景が、「勝ち」へのルール変更にあると、土井さんは言うのだ。

「かつてはすごろくに、私たちの現実の人生のメタファー(隠喩)があった。でもいまはむしろ、『黒ひげ危機一発』の方にそのメタファーがある。『刺して、当たるかどうか』『勝つか、負けるか』が、まさに私たちの人生のイメージそのもの。だから今度は、『刺して、飛び出したら勝ち』だよね、と変わっていく。一周して原点回帰したようで、その持つ意味はまったく違うのではないか。制作側の意図とはまた別のところで、背景には時代精神の変化もある。そんな見方をしてみるのも、面白いのではないかと思います」

(AERA 編集部 小長光哲郎)

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