黒ひげ危機一発(© TOMY)
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 人気のパーティーゲーム「黒ひげ危機一発」。国内のみならず世界47の国と地域で愛され、これまでに2000万個以上を販売しているという。50周年を迎える今年7月、ある「公式ルール変更」が大きな話題に。「海賊の親分が飛び出したら『負け』ではなく、『勝ち』にします」──。「えっ、真逆じゃん。なんでまた!」と驚いたあなた。その背景にはさらに驚く「時代精神の変化」もあるみたいですよー。

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 樽の中には海賊の親分。周りが固唾をのんで見守る中、樽を剣で突き刺す。親分がぴょーん!と飛び出し、歓声が上がる──。

 こんな楽しい体験をした人は、多いのではないか。「黒ひげ危機一発」。ところが発売50周年の今年、7月5日に発売の7代目から大きく「方針転換」されることが発表され、驚きの声が続出、の事態になっている。

「これまでは海賊の親分が樽から飛び出したら『負け』、が公式ルールでしたが、50周年を迎える7月からは『勝ち』に変更します」

 こう話すのは、発売元のタカラトミーで企画とマーケティングを担当する池澤圭さん。「大きな話題になっていることはすごくありがたいです」という。実際、大胆なルール変更を「公式」が発表したことにSNSでは「今年一番の衝撃ニュースだわ」という声も。東京都の会社員の女性(43)はこのニュースに「仰天した」としてこう話す。

「大好きなゲームですし、『飛び出したら負け』がもう染みついているので、戸惑いもあります。だって飛び出したら『負け』と『勝ち』では、遊ぶ側の心理も相当違う気がしませんか?」

 ふむ。たしかに。心理カウンセラーの小日向るり子さんも、「違いは大いにあるでしょう」としつつ、変更の背景にあるものをこう推測する。

黒ひげ危機一発パッケージ(© TOMY)

「海賊の親分が飛び出すかどうか、というときの怖いほどのドキドキ感。『飛び出したら負け』の場合、その恐怖に対する『躊躇』と、『負けたくない』気持ちが相まって慎重になり、プレイ時間はどうしても長くなりがち。一方で『飛び出したら勝ち』なら、勝利に急ぐ気持ちから躊躇する時間は短くなるかもしれない。つまり、『勝ち』への変更によって恐怖や躊躇という心理的ハードルが下がり、時間短縮が起きる。今回の変更は、社会全体に広がっているタイパやコスパを重視する傾向と、親和性が高いのかなと感じます」

 そもそもなぜ、タカラトミーは今回のルール変更を行ったのか。前出の池澤さんは「原点回帰」というキーワードでこう説明する。

「もともと『黒ひげ危機一発』には、樽の中で海賊の親分が縄でぐるぐる巻きに縛られているものを、ゲームの参加者が海賊の仲間の立場で、剣で縄を切って助け出してあげよう、というストーリーがあるんです。つまり『救出成功=勝ち』と。50周年を機に、当初のストーリーをもういちど大事にし、原点回帰するのもいいのではないか、となりました」

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