そんなわけで、アイドルにはうってつけだが、その気質が表に出すぎると、引かれることにもなりかねない。そのあたりのバランスをどう取るか。

 たとえば、明菜の場合、ツッパリソングとバラードで二面性をアピール。これはどちらが本人に近いのだろうという神秘性につながり「本当の明菜を知っているのは自分だけ」的な熱い思い込みをファンにもたらしたりもした。

1985年12月5日リリース中山美穂の三枚目シングル「BE-BOP-HIGHSCHOOL」 撮影/写真映像部・和仁貢介 協力/歌謡曲BAR スポットライト 新橋 

 美穂の場合だと、シングル第三弾『BE-BOP-HIGHSCHOOL』で、路線を変更。同名映画での役柄がツッパリたちに好かれるお嬢さまキャラだったことから、それを歌でも演じ、さらに第四弾『色・ホワイトブレンド』では化粧品CMとのタイアップでオシャレ系へと一気にシフトした。

絶妙だったのが工藤静香

 そんなふたり以上に絶妙だったのが、工藤静香だ。彼女がブレークするきっかけとなったおニャン子クラブはアイドルの見本市みたいなプロジェクトでもあり、ツッパリ系の子も複数輩出。そんななか、彼女が国生さゆりや福永恵規より上に行けたのは中島みゆきとの出会いが大きい。

おニャン子クラブ会員No,38だった工藤静香

 みゆきの歌世界にはヤンキー的な要素があるが、それはあだっぽい色気や不条理への異議申し立てなども含んだ奥の深いもの。静香は『MUGO・ん…色っぽい』や『慟哭』でその世界観を歌いこなし、ツッパリ好きのファンをとりこにした。

 なお、おニャン子はのちのモーニング娘。やAKB48、乃木坂46といった大所帯グループの先駆けでもあるものの、平成以降の大所帯グループから静香のようなタイプは出現しにくくなっている。せいぜい、後藤真希くらいだろうか。

 ツッパリを集団でやると暴走族、あるいはチーマーみたいになってしまうし、そもそも、真面目で平和で草食タイプの芸能人が好まれるようになったということも影響していそうだ。

 そうなると、ヤンキー性はよけいなものでしかない。最近の女の子アイドルグループが「かわいい」をひたすら強調する甘々な味で勝負しているのはそのせいだろう。

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