その象徴が横浜銀蝿となめだ。80年代前半、このふたつのブームはツッパリの美学やファッションをコミカルかつファンシーに表現して、エンタメに昇華させた。そこにアイドルブームが重なったことで、ツッパリとかわいいを組み合わせた芸能が大盛況をきたすわけだ。

 そんな組み合わせの二大ヒット商品が、中森明菜の出世作『少女A』と中山美穂のデビュー作『毎度おさわがせします』(TBS系)である。歌とドラマの違いこそあれ、どちらもツッパリ少女の屈折を巧みに描いて、幅広い共感を得た。

デビューシングル「スローモーション」の雰囲気から一転ツッパリ路線と称された中森明菜「少女A」(ファン私物 撮影/中村隆太郎)

 もっとも、明菜はツッパリのイメージで見られるのがイヤだと公言。美穂もエッセーのなかでデビュー前の自分が「長めのスカート」「真っ茶の髪の毛」「つぶしのカバン」という「不良」だったと明かしつつ、芸能界入りが決まったことで「反抗期」をやめたと告白。「笑ってください。笑える話です」(『P.S. I LOVE YOU』91年)と、自虐している。

 おそらく、それくらいのバランスがよいわけで、ツッパリを極める必要はない。高部知子のように「積木くずし」さながらのニャンニャン事件を起こして本物の「少女A」になってしまっても、木村一八のように暴行事件で「おさわがせ」しすぎても、アイドルとしては失格となる。当時のアイドルに必要なのは、ツッパリの「気質」であって「ホンモノ」である必要はなかったのだ。

「見た目」にこだわるツッパリ気質

 ではなぜ、ツッパリ気質がアイドルに向いていたのか。

 ツッパリ、ひいてはヤンキーというものは、美にこだわり、見た目を飾るのが好きだ。なりたい職業のひとつが、美容師だったりもする。ちなみに『3年B組金八先生』(TBS系)で三原が演じたツッパリも、卒業後は美容師になった。

 また、早熟で、特に性的興味が高い。上昇志向も強くて、負けず嫌いで、体力もある。タテ関係にも従順で、捨て猫みたいな魅力を持っていたりもする。

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