よく日本では「民進党は独立派で、国民党は統一派」という言論を耳にするが、それは間違っている。両党のなかにそうした主張をする人はいるが、あくまでも少数派。極端な主張だと受け止められている。両党とも基本は「現状維持」なのだ。
ただ、その現状維持のあり方で有権者の支持を争い、政策や主張を闘わせている。極端な統一や独立に振れたときは世論からしっぺ返しも食う。前の民進党の陳水扁元総統は「独立派」と目されて失敗し、馬英九前総統も「統一派」と市民に疑われてひまわり運動で権威を失墜させた。
■米中対立の激化を受け、「親米か親中か」で分断深く
そんな台湾の政治構図は変わっていないのだが、最近は、台湾の選択が、世界から関心を過去よりも強く持たれるようになった。それは米中の対立の激化が理由にほかならない。
国民党の背後に中国がおり、民進党の背後に米国がいる。どうしても、そのように見えてしまうし、その方向に台湾内部も振れていくだろう。中国から戻った馬氏は、蔡英文氏の訪米を「台湾を苦境に置くだけだ」と批判した。馬氏の訪中に与党民進党は「台湾を中国に売り渡すものだ」と否定している。両者の主張が、歩み寄ることはほぼ不可能だ。「親米か親中か」をめぐり、いま台湾社会は深く分断されつつある。民進党側は「中国の認知戦に騙されてはならない」とアピールし、国民党側は「米国のコマになればいつか見捨てられる」とやり返す。
24年1月には、台湾の総統選挙が予定されている。もともと民進党有利と目されていたが、昨年11月の統一地方選で民進党は大敗を喫し、情勢は五分五分に戻された。両党の候補者は5~6月には出揃うことになる。民進党の候補は現副総統の頼清徳氏に固まった。国民党は、世論調査で先頭を走る元警察官僚の新北市長、侯友宜氏が有力視されるが、ホンハイの創業者、郭台銘(テリー・ゴウ)氏も、馬氏の訪中のあいだに立候補を表明するなど、出馬の機をうかがっている。
情勢はかつてなく混沌としている。だからなおさら米中は「介入」に誘われるのか。
これから長い台湾の総統選挙キャンペーンが待っているが、その号砲が、現・前総統の訪米・訪中の騒動で華々しく鳴らされる形になった。
24年の台湾総統選は、米中の代理戦争になる。そんな予感が、確信に変わった1週間だった。
米中が本格介入する台湾総統選はどのような結果となるのか。日本の外交・安全保障にも大きな影響を及ぼすだろう。日本人は、台湾の選挙を他人事として見ていることはできない。(ジャーナリスト・野嶋剛)
※AERA 2023年4月24日号より抜粋