台湾の蔡英文総統の訪米、野党国民党の馬英九前総統の訪中、そして中国の軍事演習──。米中対立の激化を背景に、来年に総統選挙を控えた台湾では「親米か親中か」をめぐる分断が進んでいる。AERA 2023年4月24日号の記事を紹介する。
【写真】マッカーシー米下院議長から出迎えを受けた台湾の蔡英文総統
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「台湾問題は核心的利益のなかの核心である」
中国政府は、台湾の重要性をそう形容する。領土問題や民族問題を中国は「核心的利益」と呼ぶが、それらを超える価値が台湾にあるという。
その理由は、我々日本人の想像を超えたところにある。中国は、近代のなかで領土を列強に侵食され、国家分裂の瀬戸際に立たされた。そのなかで「愛国」と「統一」をキーワードに立ち上がって辛亥革命を成し遂げて清朝を打倒した。日本でもよく知られる孫文が打ち立てた中華民国だ。
その中華民国を内戦で追い出したのが中国共産党だが、「愛国」と「統一」というDNAはすべて受け継がれている。
一方、国民党率いる中華民国は、台湾に逃げ込み、いまも中国と台湾海峡を挟んで自由主義社会の一員として中国と対峙している。
中国は革命国家であり、中国共産党は革命政党。その革命には「国家統一」が不可欠だが、残されたラストワンマイルが台湾なのである。
さらに現在の指導者、習近平氏は「中華民族の偉大なる復興」を「中国の夢」とするナショナリズム重視の政治家だ。台湾統一は自らの任期中になんとしても成し遂げ、レガシーを作りたい。それが自らの使命である。そんな思考が、習氏の言動からは浮かび上がってくる。
共産党と国家の理念と指導者の情念。それらが一体となって、台湾への固執となっているのが現状である。
だが、台湾ではいまや自らを中国人ではなく台湾人と考える人が多数派となり、社会主義、一党独裁の中国と一緒になることは誰も望んでいない。
だからできるだけ距離を取りたい、そのためには米国や日本との連携を強化したいという自立路線が民進党だと言えるだろう。一方、中国とは切ってもきれない縁がある以上、付き合わなくてはならないし、米国や中国とも等距離でやろうという融和路線が国民党である。
市民感情的には民進党が有利な立場にいる。なんといっても「台湾は台湾」という思いを突き詰めれば中国との統一はやはり嫌である。だが、経済的な対中依存や中国の軍事力への恐れもあるので、国民党の現実主義も分かる。過去、台湾の選挙は8年ごとに民進党と国民党との間で政権交代が起きてきた。その二つの路線の狭間でグラグラ揺れているのが台湾人の心であると理解すればいいだろう。