
「還暦すぎて恋しちゃった」──久本雅美さんが「花嫁」になる。向田邦子作・石井ふく子演出の舞台に主演、ホームドラマという新しい領域への大きな挑戦を前に明かした心の裡(うち)と「本物」にかける思いとは。AERA 2025年5月26日号より。
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「いや、私もね、正直言って、どうしていいのかわからないんです。結婚したこともないし、子どももいないし」
いつも明るく溌剌(はつらつ)とした印象の久本雅美さんが、「もう本当に、プレッシャーと不安でいっぱいなんです」とほんの少し眉を下げつつ、「でも、チャーミングに演じられたらいいなと思ってます」と笑みを浮かべた。6月1日から始まった舞台「花嫁~娘からの花束~」に主演、還暦を過ぎて2度目の花嫁となる母親役を務めている。
ホームドラマという別世界への大きな挑戦
「今回の舞台はいままでにやってきたものとは違う世界観で、大きな挑戦です。ホームドラマというのは別世界だと思っていました。石井ふく子先生の演出で、向田邦子さんっていう大好きな方の脚本のタッグってゴールデンコンビに、自分が関われるなんて、22歳でお笑いの舞台やりたくて劇団に入ったときには微塵(みじん)も考えられなかったですよね。もっと言うと、このお話をいただくまで1ミリも考えたことがなかった。
しかも歴代、大女優が演じてきた役です。小劇場で暴れまわる私に何ができるんだ、っていう気持ちですよ。いままで私が外の舞台に呼ばれるのって、絶対、笑いを取るとか、暴れるとかで、メインでしっとりする役はやったことがない。振られる役ばっかりだったのに、惚(ほ)れられて、最後は嫁に行っちゃうっていうね(笑)。すごく難しいです。
でも、私も今年67になるし、ゴールが見えてきているわけです。そこに向かって自分がやりたいことは何なのか、やり残したことは何なのかって考えたときに、大先生とタッグを組めるなんて、もう奇跡に近いなって思ったんです。ものすごい大冒険であり、大挑戦でもあるけれど、この挑戦を避けたら生涯後悔するな、自分の幅が広がらないだろうな、と思って。怖いけど挑戦してみよう、って」