
石井氏にも、「先生、怖いです、不安です」と打ち明けたところ、「あなたらしくやっていいのよ」と言われたという。「でも、自分らしく演じるって、とても難しいことで。いままでやってきたなかに、引き出しがないんですよ。もちろん、いろんな舞台に出演させていただいて、引き出しは増えているので、いつもなら、あそこからちょっと盗めるなとか、この延長だなとかが見つかるんですけど、今回はまったくない。だからもう、DIYで、一から建てるという思いでいっぱいですね」
どれだけ粘っていくかが心の宝になる
そう語る久本さんは、常に全力。最後の最後まで諦めずにやることを信条としている。コスパ・タイパが声高に叫ばれる時代とは逆の有り様だ。
「短時間で要領よくやりたいっていう気持ちも、わからないでもないけど、やっぱりお客さんに喜んでもらうためにね、どれだけ悩んだか、っていうのがいちばん、かたちとして表れるのが舞台なんです。そのうえ、お客さんが見てくださることによって、芝居って変わっていくんですよ。気がつくことがすごく多くて、本当に面白い。ぐっといいものができあがるということですから、最高にいい時間の使い方なんです。だから私たちの場合は、どれだけ粘っていくのかっていうことによって、むしろ逆に、コスパでありタイパでもあるんじゃないかなって思いますよね。
物事なんでもそうだと思いますけども、やっぱり本気でやるものっていうのは、どこまでも時間をかけて粘り強く、諦めないなかに、必ず、答えがある。すぐさま結果が出るっていうんじゃなくても、心の宝になるし、財産にもなっていくんです。
本物っていうのは、それだけのエネルギーと時間がいるものだと思いますね。だからこそ、揺るぎない人生になったり、優しい自分になったり、誰かに寄り添い、包んでいける自分になったりできるわけですから。それが人間を作っていく大事なポイントだと思いますね」