つまり性暴力とは、挿入行為だけでなく、キスとか、ちょっとしたいちゃいちゃすることだったり、様々なありとあらゆる性的な行為が含まれるんですよ、そしてそれはどんな関係性でも、どんな場所でも、どんな人によってもなされ得るものなんですよ……とWHOはそう具体的に性暴力を定義しているのであった。私には少しわかりにくく感じる文章なのだけど、それはたぶん、「同意」という言葉が入っていないからだろう。WHOの定義は “加害者側の行為”の説明なのだ。そしてその定義を、フジテレビの第三者委員会は採用したということである。
ちなみに国連女性機関(UN Women)による性暴力の定義は、WHOとはまた違っていた。
「性暴力とは、相手の意思に反して行われるあらゆる性的行為を指し、相手が同意を与えなかった場合、または子ども、精神的障害がある人、アルコールや薬物の影響で重度に酩酊または意識を失っている場合など、同意を与えることができない状況で行われた場合も含まれる」
「意思に反して」とか「同意」といった言葉が出てくるこちらの定義のほうが、私にはしっくりくる。被害者の意思が優先される表現だからだろう。他にも気になり様々な権威ある国際団体の性暴力の定義を見ていたのだ。たとえば国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、性暴力を個別に定義してはいないようだが、性暴力を「ジェンダーに基づく暴力」の一形態として、「ジェンダーに基づく暴力とは、性別やジェンダーに基づいて個人に対して行われる有害な行為であり、身体的、精神的、性的な被害や苦痛を引き起こすもの、またはその恐れがあるもの、強制やその他の自由の剥奪を含む」という表記をしていた。
心身の健康と衛生の専門家であるWHOと、女性の権利を促進するUN Womenと、難民問題に取り組むUNHCRとで、それぞれの性暴力の定義の違いに考えさせられる。「どの立場で、誰の体験を通して、世界をどのように語るか」で、性暴力の定義の表現は変わるのだ。とはいえ根本的な姿勢が違うわけではない。