「性暴力」の定義を考えたことはありますか? (写真はイメージ/gettyimages)
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  作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回はこの国と「性暴力」についての理解について。

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「『性暴力』という日本語から一般的に想起される暴力的または強制的な性的行為の実態は確認されませんでした」

  フジテレビの第三者委員会の報告書に抗議する中居正広氏側の主張にはびっくりした……のだが、さらに驚いたのは、そんな中居氏に共感する声も少なからずこの国にはまだまだあるということだった。

「性暴力」とは何か……その議論を私たちはまだ、十分に尽くしていなかったのだ。2023年に性犯罪刑法が改正され、「不同意性交等罪」がつくられた後ですら、私たちは「性暴力」を知らない。

 法律とは、人の意識の前を歩いているのか、後ろからのろのろついてくるものなのか。

 性犯罪刑法改正前は、明治時代につくられた刑法が現実に即していないと嘆いていたが、今は人々の意識が新しい法律に追いついていない現実に直面しているのかもしれない。でもたとえそうであっても、法律のプロである弁護士たちが「性暴力って国によってイメージが違うのだから……」というような発信をするなんて、やっぱりもんもんとするではないか。ああお願いだから!! 性暴力の定義を揺り戻さないで!! 揺り戻すな!! 中居氏関連の記事を読みながら私は心の中で力いっぱい叫ぶ。そして、少し不安になった。あれ? それでは、性暴力の定義って、何でしたっけ?

 というか確かに刑法は改正されたが、「性暴力」という言葉は法律で定義されているわけではない。

 改めてフジテレビの第三者委員会が根拠にしたという世界保健機関(WHO)の性暴力の定義を読んでみた。初めて読んだ。そしてまた驚いたのだった。

 というのも、私自身は「性暴力」を、「それは同意のない性的行為である。以上!」とシンプルに定義していて、WHOの定義も当然そういうものなのだろうと思いこんでいた。それが国際基準というものでしょーよ、と。ところが、これが違っていたのである。以下、WHOの性暴力の定義である。

「性暴力とは、あらゆる性的行為、性的行為を求める試み、また強制的に被害者のセクシュアリティーを侵害する行為を指す。これは、加害者と被害者の関係性や場所を問わず、誰によっても行われる。性暴力にはレイプも含まれる。レイプとは、膣や肛門に、ペニスや体の一部、または物を使って、無理やり、あるいは同意なしに挿入する行為を指す」

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