「新NISA2560万口座。2027年末までに政府目標3400万口座を後押し」(撮影・東川哲也/朝日新聞出版写真映像部)

 根本的な疑問がある。なぜ、岸田さんは「資産運用推し」なのか。

新NISAも含めた資産運用立国の取り組みは、日本のお金の大きな流れを変えます。

貯蓄から投資に回ったお金を企業が活用し、自らの企業価値を高める。

企業価値が高まった恩恵は将来的に家計に戻り、次の消費や投資に回る。

こうしたお金の循環を軌道に乗せていきたいのです」

アベノミクスの教訓

 英国ロンドンの金融街シティーで岸田さんが「インベスト・イン・キシダ(岸田に投資を)」と述べたのは、首相就任から7カ月後の2022年5月。

 政権復帰1年目の安倍晋三首相(故人)が2013年9月にニューヨークで「バイ・マイ・アベノミクス(私の経済政策は買いだ)」と訴えた姿とどこか重なったものだ。

 岸田さんはアベノミクスを意識していた?

 岸田さんはリーマン・ショックと東日本大震災後のどん底からGDP(国内総生産)が増え、雇用が広がった状況を振り返ったあと、こう答えた。

「アベノミクスは経済政策として大きな意味があったと思う」

 そのうえで「しかし、成長と分配の『本格的な』好循環は起こらなかった」と総括。

「マーケットに任せきりではなく、官民が連携し、政府がしっかり旗を振っていかなければ好循環は起こらないというのがアベノミクスの教訓と考えています」

「資産運用の普及だけでなく、賃上げにも力を入れてきました。

公的価格といわれる医療や介護教育の分野の賃金は政府が率先して上げ、純民間分野のみなさんにも協力をお願いしてきました。

これで十分といえる水準まで達していないものの、本気で注力してきたのは確かです」

 その成果が昨今の賃上げラッシュである。

「これまでの30年間、経営者は誤解していたかもしれません。『賃金はコストだからできるだけ抑えるのが正しい』とね。

結果的に自分で自分の首を絞めている方もいらしたんですよ。

その誤解を解き、『賃上げで好循環が起きて企業は儲かることになる』と理解していただくのも私の使命の一つでした。

賃金を上げると消費が増え、消費が増えると企業収益が上がり、企業収益の増加分を賃上げと企業の成長投資に回す。こうした好循環が生まれるわけです」

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