科学者の「アメリカ脱出」が始まった

 イエール大学でファシズムを研究するジェイソン・スタンリー教授はこう語る。

 「高等教育への攻撃は、ナチスドイツなど独裁者のマニュアルだ。1930年代にはドイツから多くの学者が流出した。イタリアでは教授らが政府の方針に従うと宣誓させられた。同じようなことが、今アメリカで起きている」

 自由な言論の場である大学を攻撃するのは、政府批判を抑え、歴史を書き換え、科学を否定し、愛国心を煽る教育に変えるための、ファシズムの手法だというのだ。

 実はこのスタンリー教授を含む、イエール大学の著名な3人の教授がアメリカを離れ、夏からカナダの大学で教えることを表明し、波紋を呼んでいる。これに追随する者も増えると予想される。ネイチャー誌が科学者1600人超を対象に行った世論調査によると、4人のうち3人がアメリカを離れることを検討しているという。

 世界の大学ランキングの中でも著名なひとつ「タイムズ世界大学ランキング」にはアメリカから2位のMIT(マサチューセッツ工科大学)と3位のハーバード大学、4位のプリンストン大学など、3校がトップ5入りしている。

 このランキング評価基準の中で、「教員や学生の国際性」「研究の環境や質」「産業界との連携」などは重要だ。助成金カットで研究費が削減されれば、当然研究の数も減り質も下がる。留学生が減り、多様な教授陣が出て行ってしまえば国際性も下がる。

世界大学ランキングからアメリカが消える?

 そして「大学のブランド力」に直結するのが、「産業界との連携」だ。MITやハーバードの評価が高いのは、卒業生が世界的企業やスタートアップ業界で活躍しているからだ。しかし教育の質が低下すれば、この連携も難しくなるだろう。

 一方で若者の大学への期待も下がっている。近い将来AIが大卒の職種の多くに取って代わると予測される今、高額の授業料を払って通う意味はどこにあるのか? という疑問が生まれ、むしろ「手に職」がつけられる専門学校のほうがいいという考え方も高まっている。

 こうした中で、世界ランキングにおけるアメリカの大学の地位は、すでに下降傾向にある。第1次トランプ政権が行った学生ビザや技術系就労ビザの制限などが、大きく影響しているのだ。バイデン政権の努力も虚しく、この傾向は変わっていない。

 これまでのアメリカの大学の高い評価は、開かれた社会と多様性によって支えられてきた。しかしこのままいけば「知のグローバル・ハブ」はヨーロッパやアジアに移るだろう。その結果、中長期的にアメリカの衰退を招くことになる。

 現政権が、文化戦争に勝つために教育を犠牲にする姿勢を貫くなら、アメリカの大学がトップ5から脱落する日も近いかもしれない。

(ジャーナリスト、ミレニアル・Z世代評論家:シェリー めぐみ)

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