アメリカの基礎教育が崩れ始めている
コロンビア大学ロースクールの移民権利クリニック所長、エローラ・ムカルジー氏はコメントで、「政権は、アメリカで歓迎されないのは誰かという明確なメッセージを送っている」「アメリカの移民政策は今、外国人嫌悪、白人ナショナリズム、人種差別主義に突き動かされているようだ」と強く批判している。
このような状況下では、多くの人がアメリカに留学するのを躊躇するだろう。優秀な頭脳が入ってこないだけでなく、大学経営も厳しくなるのは否定できない。
トランプ政権の教育への攻撃は大学や留学生にとどまらない。着々と進められる「教育省の廃止」だ。
アメリカの教育省は日本の文科省とは少し違う。学校で教える内容の多くはそれぞれの州や地方の教育委員会に委ねられている。教育省としての主な役割は低所得者や人種的・ジェンダー的マイノリティ、障害者などが平等な教育を受けられるように、資金を提供することだ。
トランプ大統領は、教育省が仕切るアメリカの公教育も、大学と同様マイノリティの権利保護に傾きすぎていると考えている。
しかし連邦政府からの資金がなくなれば、特に財政困難な州では、マイノリティ以外のあらゆる低所得者層の子供も影響を受ける。基礎教育から格差が拡大し、その結果アメリカ全体の学力が低下するだろう。
「低学歴の有権者を愛している」発言の真意
ところがトランプ大統領はどうやら、それでもいいと考えているフシがある。その根拠となるのが、彼が2016年最初の選挙戦で行った驚きの発言だ。
「私は低学歴の有権者を愛している」
実際に昨年の大統領選でも、高卒以下の6割近くがトランプ氏に投票し、大卒以上の過半数はハリス氏を支持した。低学歴の人が多いほうが、自分には有利と考えるのは当然とも言える。
リベラルな大学を攻撃し、公教育を支えてきた教育省を廃止しようとするトランプ大統領。しかし一方では、キリスト教系の私立学校には優遇措置をとろうとしている。その背景には、アメリカ保守が長年温めてきた悲願がある。
極右のシンクタンク・ヘリテージ財団が、第2次トランプ政権の青写真として作成した文書「プロジェクト2025」には「アメリカはキリスト教国家として再定義されるべき」と明記されている。その実現のために、「選ばれた教育機関」だけを強化する、つまり教育を選別し、排他する意図があると考えられている。
国家としての知的基盤を縮小し、批判的思考を持たない市民をつくる一方で、高等教育では体制に忠実なエリートを育てる――この二重構造こそが現政権の目標ではないかという見方も強い。