きっかけはそれぞれ違う。大規模なプロジェクトを成功させたあと、この先に恋愛して子どもを産む選択肢を残すために30代半ばで採卵を行った人。大手外資系企業で重要なポジションを得た40代女性は親に孫を抱かせてあげたいという夢のため。海外の大学の博士課程で学んでいる人は自身の病気がきっかけだ。血を分けた守る存在が欲しくなったから、というのが理由である。

 成功例としては、39歳で卵子凍結した直後、年下のパートナーと出会った人は、すぐに体外受精を行い子を持つことができた。卵子凍結は人生で最高の選択だったと語る。

 女性の切実な思いとは裏腹に、男性側は消極的な場合が多いことも記されている。「妊娠は自然に」「人工的なやり方をするくらいなら、子どもがいなくてもいい」。この意識の差をどう埋めるのかも大きな問題だ。

 私が共感したのは、国内で卵子の採取と保管事業をいち早く手掛けた生殖工学博士の体験である。国内でまだ社会的適応による卵子凍結が存在しなかった時代にアメリカで行った。その後自然妊娠で子どもを授かったが、凍結卵子は、必要な人がいれば使ってほしいと保管したままだという。専門家だけにこの思いは切実だ。

 いつかは妊娠出産を、と願い卵子を凍結した人の前に立ちはだかるのは日本の法律。なにしろ夫婦別姓でさえ認められない社会では、海外のように自身の意思で結婚せずに子どもを産み育てる「選択的シングルマザー」になることは難しい。日本では病気など特別な場合を除き、第三者の精子提供は認められていない。卵子は液体窒素の中でいつ来るかわからない受精の時を待っている。

 少子化を食い止めようと卵子凍結の助成金を設けている自治体もあるが、だがそれで子どもが増えるとは思えない。

 本書は、いま人生の岐路に悩んでいる女性への指針になりうるかもしれない。この先の人生までを見据えて参考にして欲しい。

こちらの記事もおすすめ <最初の読者から> 作家・今村翔吾さんが綴る「楠木正成の息子」の物語、『人よ、花よ、(上・下)』 を書評家・細谷正充さんが徹底解剖(書評)
[AERA最新号はこちら]