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 将来の妊娠のために「卵子凍結」をする女性が増えている。

 元週刊朝日の記者・松岡かすみさんは、卵子凍結を選択した方々の本音と向き合い、一冊の本を上梓した。『-196℃の願い 卵子凍結を選んだ女性たち』である。

 「卵子凍結」で妊娠した人。凍結した卵子をあえて捨てた人。「卵子凍結」をして人生観が変わった人。彼女たちは苦悩しながらも、前を向いて進む。その姿を書評家・東えりかさんは、人生の岐路に悩んでいる女性への指針と喩えた。

 切実な願いが詰まった『-196℃の願い 卵子凍結を選んだ女性たち』の読みどころを東えりかさんが綴った書評から紹介する。

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「今は産めない」――。人生の岐路で悩む女性へ

 卵子は卵巣の中にある「卵胞」に1個だけ入っている。卵胞が発育すると壁が壊れ、中から卵子が飛び出す。これが排卵だ。健康な女性は約1ヵ月に1回、初潮から閉経まで排卵を繰り返す。受精されなかった卵子は血液とともに排出される。月経だ。通常の自然周期排卵の場合、採卵できるのは約1ヵ月に1個だけということになる。

 当然だがヒトは老いる。15歳と40歳の違いは卵胞の数。年齢とともに減少し無くなれば閉経する。自然妊娠しやすい出産適齢期の上限は35歳といわれている。

 ならば未来の妊娠出産に備えて出来るだけ若いうちに、医療機関の力を借りてたくさん採卵し、マイナス196℃の液体窒素の中で凍結保存しておこう。これが「卵子凍結」だ。言葉で書けば簡単だが決して軽い処置ではない。卵胞を育てるための排卵誘発剤には副作用がある。さらに採卵には痛みを伴う。だがこの選択をする女性は少なくない。

 今年1月に発表された2023年度の日本の普通出生率(人口千人当たりの出生数)は6.0、合計特殊出生率(一人の女性が一生に産む子どもの数)は1.20と過去最低を記録した。原因としては女性の社会進出、過酷な労働条件、多様な価値観、貧困、子育て環境の不備などが考えられる。

 さらに親や周囲からの過剰なプレッシャーは少なくなり、女性が仕事をするうえで足枷になりかねない出産は後回しにする女性が増えた。実際、キャリアを積み上げられる年齢にある者は働くことに邁進した。

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