思えば1980年代後半、子を持たない共働き夫婦はDINKs(Double Income, No Kids)を標榜していた。二人だけの生活は余裕があり気ままだ。私もそのひとりだった。結婚後、今のような不妊治療は一般的ではなく人工授精の成功の確率も低かった。早い段階で諦めもついた。
だがこの30年余りで生殖医療技術は発達し、体外受精や顕微授精などの生殖補助医療の保険適用範囲は拡大し、正式な婚姻関係を結ぶ男女には国は支援制度を充実させた。
ならば独身女性はどうしたらいいのか。年齢のタイムリミットは確実に迫ってくる。パートナーはいない、あるいは欲しくない。けれど子どもは欲しい。この先の妊娠出産の可能性をどう担保するのか。その不安を解消するために選んだ手段が「卵子凍結」である。
もとは生殖能力を失う可能性のある病気を持つ人のために開発された技術だが、現在では健康な女性が将来の妊娠に備えて行う「社会的適応」のため、卵子凍結を選ぶ人が増えてきているという。
本書は卵子凍結を選んだ女性たちの本音を聞き取った貴重な記録である。30代から40代の8人と30代後半の著者自身がそれぞれの経験をオムニバスで紹介していく。