
敷かれたレールの上を歩くだけでは物足りない
公務員を早期退職し、リゾートバイトに飛び込んだシニア男性もいる。
「役職定年後の職場もだいたい想像がつく年齢になり、全く違う世界でチャレンジしてみたいと思いました。役所にとどまれば65歳まで働けますが、敷かれたレールの上を歩くだけでは物足りないと考えました」
こう話すのは、東日本の地方都市の市役所に勤務していた男性(57)だ。今年2月に約30年間の公務員生活にピリオドを打ち、4月から同じ県内の温泉街の宿泊施設のレストランで働いている。
市役所では観光や移住促進を担当してきた。その経歴もあって、観光業界の関係者とは長年交流してきたが、これからは行政とは逆の立場から現場を見たいと思ったという。
「管理職になるとどうしても現場に出る機会が減ります。しかし、もともと人と接するのが好きなので、接客の現場でどんな課題や醍醐味があるのかを知りたいと思いました」
きっちりしたマニュアルがなく戸惑いも
とはいえ、行政とは勝手が違うシーンに直面し、戸惑うことも。
「行政の場合、きっちりした引き継ぎ書やマニュアルがあるため、異動先でもそれほど苦労することはありません。一方、サービス業はマニュアルを覚えることも重要ですが、それに加えてお客様一人ひとりに合うサービスを提供する、臨機応変な対応が非常に大事だと実感しました」
収入は公務員時代の3分の1ほどになるが、2人の子どもは独立し、住宅ローンも完済しているため、別居することになる妻の反対も受けなかったという。
男性はリゾートバイト先では「あまりお金を使わなくなる」と吐露する。住み込みで食事も白飯が提供されるため、おかずを用意する程度。公務員時代に日課だった週2回の飲み屋通いをしなくなっても、ストレスや違和感はないという。

「先輩」の19歳から仕事を学ぶ
「目の前の仕事が充実しているからなのか、まだ余裕がないからなのか分かりませんが、今は毎日違うお客様が来て、おなかいっぱいになって喜ぶ顔を間近で見られるのが何よりの楽しみです」
勤務時間は朝食を提供する午前6時半~午前9時半と、夕食を提供する午後4時半~午後10時。日中はほぼ休憩時間という、行政時代には考えられないような勤務体系。男性は「慣れるまでは大変そうです」とこぼすが、夜の勤務が終わった後、館内寮に戻って温泉につかっていると充実感も湧く。
得がたい経験もした。勤務して間もない頃、職場の「先輩」に当たる19歳の男子アルバイト学生から業務内容やルールを一つひとつ教えてもらった。
「抵抗は全くありませんでした。逆に、年齢の離れた人ともフラットに話ができるのは楽しいと感じています」
リゾートバイトに就く50~60代は、大手自動車メーカーや有名デパートなどの大企業で勤務してきた人も少なくないという。何にやりがいを見いだすかは、人それぞれ。ただし、その魅力はやってみないと分からない。
(AERA編集部・渡辺 豪)
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