
「がんなのに自撮りできる余裕があるんだ?」
7月末、抗がん剤治療を開始する日は、ショッキングカラーの短パン姿で病院に行った。沈みがちな気持ちを明るくするためだ。
それでも、ステレオタイプながん患者の姿が勝手に作り上げられる。
患者たちからの共感や励ましが集まる一方で、誹謗中傷ともいえるアンチコメントも寄せられた。
《がん患者らしくしとけ》
《がんなのになんで自撮りできる余裕があるんだ?》
がん患者は全員、弱り切ってベッドに横になり、静かに過ごしているイメージなのだろうか。副作用を抑えるなどの薬ができた現在では、治療を続けながら仕事をしている人も、遊びや旅行などを楽しんでいる人もいる。
ちゃんと外に出て人に会って仕事をして
アンナさんは、当事者たちの心理を強く代弁する。
「家にこもって誰とも会わずにいたら、うつになってしまいます。なぜって、一人で病気のことをずっと、何十時間でも考え続けてしまうからです。『アンナさん、家で休んでください』って、私にとっては悪魔のささやき。休めばいいというものではなくて、ちゃんと外に出て人に会って仕事もして、疲れたら休めばいいんです」
高齢者で社会的に孤立している人は、健康を害するリスクが高いとされている。病気の患者も同様に、進んで外に出たっていいはずだ。
一方で、SNSには手術後、痛さやつらさで泣いたことも正直に書いた。同じ患者たちが抱えるつらさや痛みを代弁したい気持ちもあったからだ。
あなたは泣かないんですか?
《昨日朝やっと自宅でシャワーに入ったの。右側の傷を徐々に観ました。なくなった胸や傷を観て泣くのではなく、観てやっと痛みの意味を脳が理解し始めて泣いた》
《退院した後が本当に痛く辛いかな。何も動かないと右手を失った感じかな。でも、どうにか頑張って動かす様にしています》
だが、この投稿をメディアが取り上げたネット記事には、こんなコメントが書き込まれた。
《痛い痛い言うな! お前の話が一番痛いんだよ》
「アンチコメントも見ます。ちょっと傷ついて……そっか、って。でも、365日ずっとポジティブなんて、嘘っぽいと思う。私、強い人だと思われがちだけど、ひとりの人間なんですよ。あなたは泣かないんですかって。たまには弱いところも見せていいと思うんです」
かつての熱愛報道の印象からか、型破りなイメージを持つ人もいるかもしれない。だが、実はよく泣く。涙を流すと心が浄化されるから、むしろ「泣くのは好き」だという。