
増えない対米貿易
対米貿易は第1次トランプ政権も含めて、いままでの8年間はほぼ6千億ドル前後で推移しているが、中国のGDPは17年の12.5兆ドルから24年の18.7兆ドルまで49.6%も増えていた。対外貿易における対米の比率も下がり続けた。
中国統計年鑑のデータで調べてみたら、17年の14・2%から24年の11・1%に下がっている。現状維持しながらアメリカ以外の輸出先を開拓していくという中国の貿易戦略が読み取れる。
60%に引き上げた対中関税は、すでにモノづくり企業の業績に影を落としている。事業の多くをアメリカからの注文に頼る江蘇省や浙江省などの企業を取材して聞いた話では、輸出後の税金の還付を受けて、やっと2%ほどの純利益を確保できる状況という。
とはいえ、今回引き下げられる115%のうち「相互関税」にひもづく24%は90日間の一時的な停止だ。この間に次の取引先を探すと浙江省の中小企業は中国メディアの取材に答えていた。2、3カ月だけでもアメリカからの注文を受けて仕事をしてきた企業にとって希望がみえてくる。
「アメリカだって中国に代わって価格が安く大量の商品を期日通りに生産し、運んでくる国を見つけるのは大変ではないか」
長年米国向けの製品を生産してきた企業の中には少々楽観的な見方の企業もある。ただ、90日後を見据えて、不安の中で対米輸出を増やしていくと考える企業はもはや一社もない。
米国以外で取引先開拓
合成麻薬フェンタニルの流入を理由に課している関税20%について、中国ではほとんどの人がフェンタニルの名前を聞いたこともないし、アメリカが輸出禁止というなら快く許諾するだろう。感情的な関税政策は長く続かないと思っている。
とはいえ、対中国だけでなく、日本、EUに対してもアメリカは今後、大きく関税を下げることはないと見込んで、アメリカが高関税の時代に突入したというのが中国側の見方だ。
90日間の猶予期間を生かして、アメリカ以外の輸出先を見つけようとする中国企業は増えそうだ。(ジャーナリスト・陳言=北京)
※AERA 2025年5月26日号より抜粋
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