スイス・ジュネーブであった米中協議の後、記者会見を開く中国の何立峰氏(中央)と李成鋼氏(右)ら(写真:新華社/アフロ)
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 アメリカと中国は、スイスでの協議を経て、互いに掛け合ってきた高関税を115%ずつ引き下げることで合意した。これで「関税合戦」は落ち着きを取り戻すのか。AERA 2025年5月26日号より。

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 中国は、第1次トランプ政権下の、米国との交渉経験を生かすことができた。

「トランプさんはビッグビジネスマンから大統領になり、ディール(取引)が好きで、複雑な戦略外交などあまり好きではなく、交渉しやすいだろう」

 第1次トランプ政権の際、多くの中国人はこう思っていた。何度も譲歩し、妥協点を探ってみた。習近平(シーチンピン)氏の中学の同級生で、同じ陝西省の農村で働き、国の将来を議論してきた当時の副首相の劉鶴(リウホー)氏を全権代表として何度もアメリカに派遣し、交渉に当たった。

 時にはホワイトハウスでトランプ氏が大きな机を隔てて、いかにも部下のように劉鶴氏を座らせて命令を下すかのような写真がアメリカのメディアに載っており、海外のメディアに接した中国エリートたちは良くは思わなかった。それでディールが成立したならまだしも、妥協した内容が次から次へと追加でやってきて、トランプ第1次政権の4年間で米中貿易交渉が難航した。

「(トランプ氏の)ディールの芸術ではなく、(少しずつ実効支配の既成事実化を図る)サラミ戦術にはめられたのではないか」と悟ったときには、妥協点を探し、約束を守るはずだといったトランプ氏に対する甘い期待は、いつのまにか減り、より厳しい交渉をし、衝突に備えようと中国は変化した。

 2017年から20年の暮れまで長期にわたって対米(トランプ)交渉をしたが、対中関税は高まる一方で米中ともに疲れ切っていた。

 バイデン政権になり、トランプ氏による対中関税などはそのまま継承された。アメリカはITと金融、中国はモノづくりというすみわけは、高関税で維持できなくなる、いずれアメリカ以外の外国と貿易を増やしていくしかないと中国側は感じた。

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