
東大とハーバード大という日米の両トップ校に通った経験のある兵庫県芦屋市長の高島崚輔さん(28)。それぞれの大学の学びの特色や制度には違いがあるという。卒業後の進路に大学の学びはどう生かされたのか(全2回の1回目/前編から続く)。
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大学の学部や専攻の選び方も日米で大きく異なる。ハーバード大は入学時、文系と理系の区別がなく、学生は自分で受けたい授業を組み合わせて受講する。専攻も早くて2年生の秋学期に決めればよいうえ、一度決めた後も自由に変えられる。
高島さんは高校2年生まで理系だったが、3年生で文転し、東大は文科一類で受験。「環境政策」に関心があった高島さんはハーバード大在学中に「政策を考えるには、原理を理解する必要がある」と考え、結局、理系の環境工学を専攻して卒業した。
「ハーバード大では実際に授業を受けながら自分に合った専攻を選ぶことができるのが大きなメリットだと感じました。政策という文系分野、工学という理系分野の両方を深く勉強するには、文系、理系を問わず幅広く学べる米国の大学の方が適していると思います」
キャンパス内でほぼ完結する特異な環境
一方で、人間関係も生活もキャンパス内でほぼ完結するハーバード大の環境の特異さも在学中に実感したという。
「授業は充実していましたが、ハーバード大の関係者以外とはほとんど会わない生活のため、実社会と距離が開いてしまうことには気を付けないといけない、という意識も働くようになりました」
高島さんはハーバード大には7年間在籍し、その間3度、休学をした。奨学金を得て、世界各地の環境やエネルギー分野の仕事の現場を見て回り、「自分の学んでいることと社会とのつながり」を見つめ直したことで、さらに学びへの意欲が湧いてきたという。
ミュージカル映画「ラ・ラ・ランド」監督も
気になるのがハーバード大生の卒業後の進路。高島さんの同期生で最も多い就職先はコンサルで18%、次いで金融(17%)、テクノロジー分野(14%)と続く。女性に限定しても、コンサル(15%)、金融(14%)、テクノロジー分野(12%)とこの比率はほぼ変わらない。
「ジェンダーの枠にとらわれず、自分が興味のある分野を追求できる環境は日本社会よりも米国社会の方が整っていると感じます」
ユニークな進路を選ぶ人が多いのもハーバード大の特徴だ。例えば、2016年公開のミュージカル映画「ラ・ラ・ランド」のデイミアン・チャゼル監督と音楽担当のジャスティン・ハーウィッツさんはハーバード大でルームメイト同士だったという。「ラ・ラ・ランド」は彼らが意気投合し、卒業制作として撮影したミュージカル映画が原型だ。
一方、卒業後に「市長」という職業を選択した高島さんは、ハーバード大での経験をどう生かせている、と考えているのだろう。
「自治体の仕事は、自分が当事者ではない問題にも向き合うのが必須の職場です。例えば、出産や介護、障がいといった地域福祉の課題に私個人は直面していませんが、行政トップとして深く向き合うことは不可欠です。そこにフラットにアプローチできるのは、米国の大学でマイノリティーとして生きづらさも抱えながら暮らした経験が大きな糧になっていると感じています」
自治体トップの職務を遂行するに当たって、母語が使えない米国の大学でマイノリティーとして過ごした経験が大きく寄与している、というわけだ。たしかに、灘中高から東大という国内トップエリートから一度も外れないコースを歩んでいた場合、社会課題に向き合うことはできても、社会的弱者が抱える意識の共有までは容易に想像が及ばなかったかもしれない、という感覚は的外れではない気がする。