「家族に離婚歴があるのはちょっと……」

 美香さんは就職を機に実家を離れ、地方で1人暮らしをしていたが、地元企業への転職を契機に実家へ戻った。ささいなことから親子げんがに発展した際、思わぬ言葉を母親から投げかけられた。

「どうせ結婚相手も親の言うことなんか聞かないで勝手に決めるんでしょう!」

 けんかの内容とは関係ないのに、突然結婚相手に話題が飛んだことに、美香さんは戸惑った。と同時に、母親は以前から、「親が反対する人と結婚したらうまくいかない」と繰り返し口にしていたことを思い出した。この言葉をきっかけにして、そうした母親の思いが美香さんに重くのしかかり、結婚相手を見る際に、常に「母親ならどう思うか」を気にするようになった。

 あるとき、婚活で出会った男性との2回目のデートで、彼から「姉は離婚歴のあるシングルマザー」と打ち明けられた。他にも気になる点がいくつかあったものの、美香さんはもう一度会うべきか迷い、母親に相談した。すると母親は「家族に離婚歴があるのはちょっと……」と難色を示した。その一言が決定打となり、美香さんは男性との交際をやめた。

 当時のことについて、美香さんは「断る正当な理由を探していたのかもしれない」と振り返る。自分の一存で決断すれば、「高望みしすぎではないか」という罪悪感を抱いたり、後悔するのではないかという不安が生じたりすることもあるが、母の一言があったことで、安心して断ることができたと私に語った。

 一方で「親ブロック」を乗り越えて結婚した女性もいる。

 関東在住の菜摘さん(30代後半)は両親が早くに離婚し、祖父母の実家で母親と弟と育った。母親は公立保育園に勤務する保育士で、公務員信仰が強く、菜摘さんにも同様の道に進むことを願っていた。就活の際、菜摘さんは民間企業にも関心があったが、母親の反対を受けて断念し公務員試験を受けた。市役所の正規職員には不採用となったが、非常勤職員として採用されると、母親は満足した様子だったという。

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