ド・ゴール主義と戦略的自律
トランプ政権以降、アメリカ国内には人種問題、人権問題、経済格差などによる分断がかつてないほど深まっています。加えて、2021年1月6日に起きた議事堂襲撃のような民主主義の根幹が脅かされる事件もありました。世界の地域によっては、民主主義が後退しているところもあります。民主主義は今後も盤石な政治システムなのかと問われればこう答えましょう。
歴史を振り返ると、民主主義の波は上昇したり下降したりしています。冷戦終結後、民主主義国家の数は増加していますが、今、その波は後退しています。それでも今の世界を60年代、70年代の世界と比べると、まだ民主主義国家の方が多くあります。その進歩は紆余曲折がありますが、まだ進歩していると思います。
もし、次期大統領選でドナルド・トランプが勝利すれば、民主主義は後退するでしょう。トランプは民主主義後退の印です。私はトランプが再選されないことを期待しています。
フランスのマクロン大統領は最近、ヨーロッパはアメリカへの依存度を減らして、台湾をめぐっての米中対立に引きずり込まれるのを避けなければならないと言いました。習近平は、マクロンの戦略的自律の考えを支持しています。マクロンは、ド・ゴール主義の長い伝統に従っていると思います。
これは、フランスの軍人・政治家であったシャルル・ド・ゴールの思想と行動を基盤にしたフランスの政治イデオロギーのことで、その最も大きな主張は外国の影響力、特に米英から脱し、フランスの独自性を追求することです。
さらにマクロンは、ヨーロッパにおいて、ドイツよりも主導的な役割を果たそうとしています。同時に、国家安全に危険が生じないようにするために、アメリカと適度な距離を保とうとしています。マクロンはフランスの伝統に従っていますが、それはそこまで不健全というわけではありません。
マクロンの行動は中国寄りに見えますが、かなり、まだ民主主義陣営に残っていると思います。重大な危機に直面したとき、マクロンはアメリカ側につくでしょう。ド・ゴール時代を思い出してください。ド・ゴールがフランスからNATO本部を締め出してブリュッセルに移転させたときでも彼はNATOから脱退しませんでした。
同様にキューバ危機が生じたときも、ド・ゴールはソ連側ではなく、アメリカ側を支持しました。ド・ゴール主義はどこまで有効であるかについては限界があると思いますが、マクロンはその伝統に従っていることは確かです。