梶原麻衣子さん=本人提供

 では、西田議員の言動は同じ「保守」「右派」の立場から見てどう映っているのか。梶原さんは一定の理解を示す。

「西田議員は問題視されている発言部分に入る前に、『非常緊急事態における国民保護』の話をしています。本来、国民保護は『かつての沖縄戦のような軍民入り乱れる状況にならないために、有事の際に事前に国民を安全地帯に移動させるなどして保護すること』を目的としているはず。しかし国民保護が沖縄で理解されない状況があり、そこに対して葛藤があること、そこまでは理解できます」

「沖縄戦を再現させないためにこそ、国民保護が必要」であるにもかかわらず、「戦時を想定すること自体が、沖縄戦を想起させる。戦争の準備か」と反対される状況に対して、その根源的要因を西田議員は「戦後教育・戦後体制・東京裁判史観」に求めている。だからこそ、その「(国民保護にすら反対する世論を生む)間違っている戦後教育の一例(象徴)」として、「ひめゆりの塔の『説明のしぶり』」を例に出したのではないか、というのだ。

 梶原さんは「沖縄と旧日本軍をめぐる関係性において、実際に沖縄県民(と日本兵)を殺害した米軍の行為以上に、そうした状態に至らしめた日本軍への批判的視線が強く打ち出される印象を受ける面は、確かにないことではない」と話す。沖縄にとっての「悪人序列」が「旧日本軍>米軍」になってしまっていること、それがさらに「自衛隊>米軍」になりかねないことを危惧する面は梶原さん自身にもあるという。

 ただ、と梶原さんは続けた。

「国民保護の議論が必要なほど切迫した現状にあるからこそ、特に政治家にはより丁寧な説明や話し方が求められています。現時点では歴史の解釈以上に現在の安全保障環境を重視するべきだと考えている右派である私からすると、今回の発言とその後の対応を全体として見た場合、『国民保護の議論すらも遠ざけかねない、さらには沖縄と本土を離間させかねない、肯定的に評価できる部分のない言動』になってしまったという思いがあります。歴史観の是非ではなく、その言い方で国民保護の必要性を訴えることにつなげられるかと言えば、現状では難しいからです」

 西田議員は9日にあらためて記者会見を開く、との報道もあるが、西田議員が少なくとも8日までに発言を撤回、謝罪しなかったのはなぜなのか。

「本人としては『ひめゆりの塔の施設内に該当の解説があったかなかったか』は論点ではなく、『いざという時の国民保護の議論さえ遠ざける戦後教育』を変えることに主眼があるので、おそらく『切り取りだ』というような抗弁を繰り返しているのだと思います。西田目線では『自分の発言(歴史観)を否定し、撤回させるために、施設内の説明の有無に話を矮小化している』と見ていると思われます。となれば『謝罪の必要も、発言の撤回の必要もない』ことになります」

 今回の西田議員の発言とその後の対応の問題点は何か。「保守」の立場からも国家の包摂や紐帯といった面からもマイナスでしかないのではないかと問うと、梶原さんはこんな見解を示した。

「本人が動画で発言の背景を説明していますが、『意見の違う人にも伝えよう』とする説明にはなっていません。これを見て西田議員の言いたいことを理解できる人は、もともと西田議員と同じ歴史観を(部分的にでも)共有している人だけだと思います。動画では『沖縄のメディアが、集会後に私への取材もなしに一方的に切り取り報道をした』と言っていますが、それなら問題となった後であっても取材が来たら応じ、どういう意図の発言だったかを懇切丁寧に説明すべきです。『左翼メディアが正しい歴史観を持つ私を攻撃しに来ている』という思考にとどまっているために話が余計にこじれているのではないでしょうか」

 梶原さんは、西田議員が最も意を尽くして説明すべきは「自分とは最も意見の異なる左派」に対してでなければならないと強調する。

「『国民保護の必要性の理解を妨げるもの』を除去したいなら、発信すべきは今回のような話ではないはず。国民保護は口実で、それができなくても『正しい歴史観』を唱えたいだけと言うのなら、沖縄がこの先、戦場になっても自分たちが正しいと信じる歴史観が残ればいい、と考えていると受け取られかねないことは理解すべきです」

 西田議員は講演で「沖縄の場合、地上戦の解釈を含めて、かなりむちゃくちゃな教育をしている」「自分たちが納得できる歴史をつくらないと」とも述べた。しかし現時点でSNSの反応などを見る限りでは、「右派と左派」「保守とリベラル」「沖縄と本土」という対立の構図ではなく、「まともな歴史観か否か」という観点から西田議員への批判が集まっているように感じられる。「歴史はつくるものではなく、学ぶもの」という最低限守るべき共通の規範が崩れると、「異なる意見や考え方の人とも議論を重ねる」民主主義のシステムそのものが成り立たなくなる。それが西田議員の狙いではないだろうが……。

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