「持って生まれた感性はいいでしょうね。すごくいい感性を持っている。それを花咲かせてやりたいなと思うけど、今の彼女の年代とレベルを考えたら、ストイックさに欠けるし緻密じゃない」

 井村氏が比嘉に厳しく注文をつけるのは、日本代表のソリストが日本AS界の目標となるべき存在だからだ。ソロは五輪では行われないが、各国のエースが国の威信を背負って競う大切な種目である。「日本の代々のソリストは、確かな技術を持っていた」と井村氏は言う。

「彼女が本物になることで、日本が方向性を見いだすし、選手も『ああ、そうなんだ』って思うじゃないですか」

「日本が強くなってほしい」と願う井村氏は、井村ASクラブで自身の右腕として活躍していた宮川氏が日本代表HC就任の打診を受けた際にも「私に出来ることはしてあげるから、行きなさい」と背中を押したという。現役時代は愛弟子だった宮川HCの手腕について「ものすごく真面目に進めていく」と評価する一方で、「私と違って、あの子には遠慮というものがあるんですよ」とも語った。

「やっぱりHCって、コーディネーターじゃないですか。イエスばかりじゃなくて、ノーも言わなければ」

 恩師に見守られながら真摯に重責と向き合う宮川コーチは、前を見据える。

「6月に(ワールドカップの)スーパーファイナルが中国で行われますので、それをまず私達はステップとして踏みます。その後に、7月の世界選手権を迎えます」

「後は、いかに緻密にしっかり練習して合わせるか。そこは、私達日本人が得意にしている部分ではあるので。とにかく、細かく細かくやっていきます」

 比嘉も、「私がソロで日本チームを引っ張っていけたら」と意気込む。

「もちろんプレッシャーもあるんですけど、私には日本を背負っているという責任があるので、しっかりその責任を果たせるように」

「今のままではまだまだ世界には及ばないと思うので、しっかり細かい部分までこだわって。自分の限界を決めずにどんどん挑戦していく気持ちで練習して、世界水泳では輝夜姫をしっかりと演じられるように頑張ります」

 今夏、シンガポールで、マーメイドジャパンはロサンゼルス五輪へ向け本格的に歩み始める。

(文・沢田聡子)

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