古賀茂明さん

 世論調査でも、トランプ氏の経済政策の評価が軒並み下がっている。特に、貧困層や高齢者などが、今後の物価上昇を非常に恐れているようだ。こうした不満もあって、全米で反トランプのデモが拡大している。

 庶民が、このままおとなしく耐えることはできないというのが中国側の見立てだ。来年の中間選挙までには、トランプ氏もどこかで矛を収めざるをえないと見ている。

 前述のとおり、中国は、この日に備えて、輸出における対米依存をかなり減らしてきた。それだけでなく、大豆や中国人が最もたくさん消費する豚肉の輸入でも対米依存を下げ、輸入先をブラジルなど多くの国に分散している。庶民への影響を抑える狙いだ。

国債を発行して企業を支援する余裕は十分にある

 また、政府は、苦境に陥った輸出業者に対して、あらゆる手段でサポートする覚悟だという。

 ちなみに、中国の政府債務残高の対GDP比率は22年に77%程度で、120%を超える米国や260%超の日本などに比べてかなり低く、国債を発行して企業を支援する余裕は十分にある。

 また、株式市場でも、政府系ファンドによる買い支えで暴落を防ぎ、大手企業には自社株買いを奨励して株価維持を図っている。限界はあるだろうが、こうした介入措置を臨機応変に使えることも有利な点だ。

 米国では今、トランプ氏の関税措置でインフレが激化し、金利が上がるという懸念が強まっている。それは国債安を意味し、同時に景気を冷やす。景気が悪くなっても関税が下がらなければインフレは止められないので、不況との同時進行でスタグフレーションというシナリオが現実味を帯びる。その心配から、4月の相互関税実施を受けて株も債券もドルも全部が下がるというトリプル安になって、「金融危機か?」という状況になった。

 トランプ大統領は慌てて、相互関税の上乗せ分実施を90日間延期したり、中国への関税を大幅に下げるかもと言ったりして、市場を安心させようと必死だ。

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