「排骨担々 五ノ井」の排骨担々麺は一杯1350円。排骨、ネギ、青菜。麺は細めストレートの矢部製麺製だ(筆者撮影)
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 日本に数多くあるラーメン店の中でも、屈指の名店と呼ばれる店がある。そんな名店と、その店主が愛する一杯を紹介する本連載。今回は東京・目黒にあるワンタンメンの名店「支那ソバ かづ屋」の店主・數家豊さんの愛する名店「排骨担々 五ノ井」をご紹介する。

【写真】「スープにじゃぶじゃぶ浸けてもほどけない」最高の排骨がこれだ!

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 東京メトロ・神保町駅から徒歩5分。錦華通り沿いに担々麺の有名店がある。「排骨担々 五ノ井」である。2018年創業。担々麺に豚ロース肉を揚げたカリカリの排骨(パイクー)をのせた排骨担々麺の人気店だ。

 店主の五ノ井誠さんは宮城県生まれの東京都世田谷区育ち。父親は、当時渋谷駅前にあった中華料理店「亜寿加」で料理長をやっていた。五ノ井さんは、幼いころからそんな父親の背中を見ていたという。 

排骨担々 五ノ井/東京都千代田区神田猿楽町1-3-6 HARAビル1階/営業時間はお店のSNS(@paikutantan)などで公開(筆者撮影)

 五ノ井さんが生まれた頃の「亜寿加」は昔ながらの中華料理屋という感じで、さまざまな中華のメニューを提供していた。駅前ということもあって人気の店で、地元客からふらっと入ってくる一見のお客さんまで毎日多くの人でにぎわっていた。五ノ井さんもよく店に食べに行っていて、高校時代にはアルバイトもしていた。

 高校卒業後は、エンタメ業界の技術部門に憧れ、日本大学芸術学部映画学科へ進学。大学を出た翌年から、麻布十番にあるMAスタジオでスタジオエンジニアとして勤めることになる。

 この頃、「亜寿加」はオーナーの鶴の一声でラーメン専門店にリニューアルすることになった。1990年代後半といえばラーメンブームが始まった頃で、専門店も少しずつ増えていた。ここで「亜寿加」は「排骨担々麺」を看板にした専門店にリニューアルした。中華料理店からのリニューアルだったので、担々麺が身近な存在だったのだろう。しかし、当時から考えれば実に攻めた戦略である。

 そこから「亜寿加」はラーメン本で紹介され始め、テレビの取材も来るようになった。排骨担々麺を提供している店が珍しく、他と被らなかったことも大きい。

 父親が勤める「亜寿加」が軌道に乗る一方で、五ノ井さんは将来に迷っていた。これから何をやればいいかが見えず、自分探しの旅に出るも答えが見つからない日々が続いた。

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