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 こころに不調を抱えている人は、からだにも症状が出ていることが少なくありません。30年超にわたり漢方診療をおこなう元慶應義塾大学教授・修琴堂大塚医院院長の渡辺賢治医師は、「こころとからだ、どちらにアプローチして治療を進めるかは臨機応変に対応しますが、最終的に目指すのは心身ともに改善すること」と話します。
 メンタル不調に対して漢方という選択肢もあるということを、より多くの人に知ってもらいたいと、渡辺医師は著書『メンタル漢方 体にやさしい心の治し方』(朝日新聞出版)を発刊しました。同書から、パニック障害と診断された実際の患者の症例を抜粋してお届けします。

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【症例② 22歳・女性・システムエンジニア】

 Bさんは新卒で就職したタイミングで実家を出て、一人暮らしを開始。システムエンジニアの仕事で残業が多く、帰宅が夜遅い時間になることもたびたびありました。寝不足が続く中、ある日の通勤途中に突然便意をもよおし、駅のトイレに駆け込みます。その後同様の発作が数回重なり、電車に乗ることが怖くなっていきます。

通勤中の突然の便意を機に電車に乗れなくなって

 電車に乗ると動悸がするようになり、とうとう電車に乗れなくなり、会社に行けなくなってしまいました。

 心療内科を受診したところ、パニック障害と診断されます。パニック障害の薬を処方されますが完全には治らず、当院を受診されました。Bさんの場合、パニック障害ではありますが、それを引き起こした原因は、突然の便意を何回か繰り返したことです。そこで過敏性腸症候群に効く桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)を処方することにしました。

 また、明らかな腹部動悸が認められ、自律神経の乱れがあったので、竜骨、牡蛎(ぼれい)を追加して処方。腹部動悸は、おへその下あたりがドクドクと脈打っている症状で、自律神経が乱れている人に特徴的に見られるものです。

 2週間後に気持ちが楽になり、睡眠も深くなったとのことでそのまま服用を続けてもらいました。4週間後には腹部動悸がかなり減少し、便通も規則正しくなったとのことで処方を桂枝加芍薬湯のみに変更。6週間後からは、少しずつ電車に乗る練習をするように助言しました。
 

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