性欲は誰にもある自然な欲求。障がいのある人の性がないがしろにされていると感じた(写真はイメージ/gettyimages)

 延命治療をするのか、延命治療はせずに自然な流れで最期を看取るのかという究極の選択も迫られた。大好きな祖母の最期を、自分が決めないといけないつらさに、悩んで泣いた。最終的には祖母自身の「延命だけはせんといてや」という言葉を信じ、延命はせず、自宅で最期を看取った。

「ものすごい葛藤でしたが、命が終わっていく過程を間近で見られたのは、とても貴重な経験でもあったと思います。この経験を機に、私のように家族を看取る人のケアやサポートをしたいという思いが強くなり、介護の世界を志すようになりました」

「何をしても楽しくない」という男性

 福祉の資格を取るため、専門学校に通い始めた。当初は高齢者介護を学ぶ目的で入ったが、授業の中で障がい者福祉についても学ぶ機会があった。障がい者福祉のグループホームに見学に行ったことが、2度目の転機となった。

「グループホームで出会ったのが、『何をしても楽しくない』という統合失調症の男性患者さんでした。支援者も彼がどういうことに楽しさや充実感を感じるのかがわからず困っていた。私は風俗店で働いた経験から、男性が女性と触れ合うことで、本能的に満たされるものがあるはずと、率直に“女の人と遊んだらいいんじゃないかな?”と思ったのです。でも、女の人と遊ぶにしても、接点がない。障がい者も利用できる性のサービス、例えば風俗店のようなものが、こんなにもないんだと知るきっかけになりました」

障がい者の「自由」がない

 ストレス解消、現実逃避、癒やされたい、非日常を体験したい、単純な好奇心――風俗店を利用する男性の心理には、“性欲の処理”を超えた動機もあると感じてきた。性風俗に救われる人や、精神的な拠り所になっている人もいる。

 性風俗に嫌悪感を持つ人もいるが、風俗営業法の基準を満たしている風俗店は合法化されており、利用が法的に問題になることはない。性の優先順位が人それぞれであるように、風俗店を利用するのもしないのも、あくまで「個人の自由」だ。

 だが、利用者が障がい者である場合、一般的な風俗店ではサービスの提供を断られるケースが少なくない。

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