
退職代行サービスに寄せられる「遺留ハラスメント」の訴え
退職の意思を示した従業員に対して会社側が必要以上の引き留め行為に出る「慰留ハラスメント」が顕在化している。
「過度な引き留め行為は昔からあったと思いますが、退職代行サービスの普及によって退職理由や経緯を詳しく把握できるようになったことで、慰留ハラスメントの内情が『見える化』されてきたのだと感じています」
こう話すのは、退職代行サービス「モームリ」を運営するアルバトロス(東京都品川区)の谷本慎二代表(36)だ。退職代行サービスの相談者の半数超は慰留ハラスメントとセットで悩みを打ち明けるという。
「もともと離職率が高く、パワハラ体質の経営者や上司がいるブラックな企業では退職願がすんなり受理されることはまずありません。令和の時代にまだこんなことが起きているのか、と驚くようなケースが後を絶たないのが現実です」(谷本さん)

退職意思伝えると「5年待ってね」
正直に明かせば、筆者には退職代行サービスを利用するのは「社会経験の浅い若者」という偏見がどこかにあった。そう告げると、谷本さんは「それは事実ではありません」と明確に否定した。同社の場合、利用者の6割は20代だが、中高年層も珍しくない。今年4月には83歳の男性から依頼を受けた。「自分が転職を考えた時期にこういうサービスがあれば利用していた」という中高年層の声も少なくないという。
なかには入社時に、短期間で退職した場合は「会社側の損害賠償請求を受け入れます」という誓約書にサインをさせられていた人や、「退職の意思を3回伝え、最後は土下座したにもかかわらず退職できなかった」と訴える人もいた。ほかにも、「提出したばかりの退職願が目の前でシュレッダーにかけられた」という人、「退職の意思を伝えると『5年待ってね』と言われた」と打ち明ける人など、耳を疑うような事態が繰り返されているという。
背景には、深刻度を増す人手不足がある、と谷本さんは指摘する。「業績が厳しく、人手不足の企業ほど退職希望者を執拗に引き留めなければ、さらに業績が悪化するという悪循環に追い込まれています」
責任感の強い人や気弱な人ほど、「業務が回らなくなる。残る人のことを考えろ」と詰められると辞められなくなる。職場で孤立しながら在籍するストレスで心身を病む人も少なくない。谷本さんは退職の意思を示しても職場を離れられずにいる人に、こうアドバイスしている。
「そもそも欠員が出て業務が回らなくなるのは、会社の人員配置能力の問題です。体調を崩してまで退職できない、という事態は絶対に避けるべきです」