納棺師は、『おくりびと』という映画が大ヒットして以来、広く知られるようになったが、遺体を湯かんし、死装束を着せ、故人が女性なら化粧をしたり、男性ならひげをそったりして、身支度をさせるのが役目だ。こうした役割は、かつては家族が担っていたが、業者はこれを「納棺の儀」として仕立て、遺族はプロに任せるのが当たり前だと思うようになっている。

 その背景には、祖父母や親が、老いて、病に倒れ、死んでいくという姿を日常のなかで見なくなったこともある。病院では、家族が付き添って看護することは、医療保険制度上は原則禁止とされているし、介護や看取りもプロの手にゆだねられるようになっている。

 しかし1970年頃には、家族だけで介護をした人を表彰する制度が自治体で次々に誕生しており、家族介護は美徳であるとされていた。例えば高知県では、表彰の対象者は、30歳以上なら5年以上、30歳未満なら1年以上、「寝たきり老人」の介護をしている嫁と孫嫁で、「常に強固な意志と信念を持って明るく誠実な生活を営み、人格円満で寝たきり老人の介護に心身共につくしている模範的な嫁」とされた。

 86年から対象を「模範嫁」から「優良介護家族」に変えたが、表彰制度自体は93年まで続いた。

朝日選書『〈ひとり死〉時代の死生観 「一人称の死」とどう向き合うか』(朝日新聞出版)

朝日選書『〈ひとり死〉時代の死生観 「一人称の死」とどう向き合うか』(朝日新聞出版)から一部抜粋

[AERA最新号はこちら]