「これは現状の中間管理職よりも一ケタ少なくなります。新卒一括採用でホワイトカラーを目指す学生の採用も減っていくでしょう」(同)
社会全体としてボス仕事を担うアッパーホワイトカラーだけがグローバル産業で生き残り、ロウワーホワイトカラーはノンデスクワーカーに移行していく。冨山さんはこうした行き場を失ったホワイトカラーを幕末~明治維新期の士族になぞらえる。
「戦(いくさ)をしなくなった江戸時代の武士の実態はホワイトカラーといってもよいでしょう。その武士階級が明治維新で一斉に失業し、別の仕事に転じていきました。それと同じようなことが近い将来、日本社会で起きると見ています」
偏差値の高い大学を出て有名企業に就職し、本社勤務の安定した生活を送ってきたエリートの居場所もなくなるという。東大生の就職先として近年人気のグローバルコンサルファームも例外ではない。東京大学卒業後、「ボストンコンサルティンググループ 」(BCG) に入社した冨山さんは東大生のコンサル志向の先達ともいえるが、その冨山さん自身、「コンサルティングワークもAIの代替が進み、縮む可能性が高い」と唱える。
「コンサルティングファームは応用可能なテンプレート(ひな型)をベースに、そこに個別データを入力して正解を導きだすスタイルを踏襲してきました。これはAIが得意な分野そのものです。欧米ではコンサルのリストラが既に始まっています」
もちろん、優秀な学生が経験値を高めるため、グローバル水準のコンサル業界に就職する流れは今後も続くだろう。それは国内の大企業に入社したホワイトカラーも同様だ。ただ、そこで漫然と働いていると淘汰されかねない、と冨山さんは警鐘を鳴らす。
「明確な目的意識をもって強みとなるスキルを磨くのではなく、漫然とホワイトカラーの仕事をこなしているだけの人は、どこからもお呼びがかからなくなります。それは学歴と無関係です。これからは『どの大学を出たか』ではなく、『何ができるか』が問われるようになります」
冨山さんが展望するのは、人手不足が顕著なエッセンシャルワーカーや地方のローカル産業を担うノンデスクワーカーを、低賃金労働者ではない「アドバンス」(高度化・進化)な地位に格上げし、日本の新たな中間層に位置付ける社会だ。
「新たな分厚い中間層を形成し得るのは、アドバンスト現場人材以外には考えられません。現在50代以下のホワイトカラーの人は経営層になるまで駆け上がる気で働くか、アドバンスな現場人材になるしか生き残る方法はありません。そうでなければ、ホワイトカラー職にしがみつかない方がいい」
では、どんな職種が高収入を伴う「アドバンス」になり得るのか。労働の対価は基本的に需給で決まる。これから供給制約になる職種を選べばいい、と冨山さんはアドバイスする。
「外国人労働者で代替するのが難しい建設・土木・解体・造園などの熟練技能職はどんどん給与が上がり、年収1000万円プレーヤーが続出するでしょう。観光業や飲食業も高いレベルのサービスを提供できる職能のある人の給与は確実に上がっていきます」
共通するのはAIや自動化によるサポートで仕事の効率は上がるが、代替はできない仕事。最終的なバリューを作るのは「人の手」というのがポイントだ。冨山さんは言う。
「需要に対して供給が追い付かず、なおかつAIの導入で生産性が上がる。この二重の作用で賃金が上がる条件がそろっている職業が有利なのは間違いないでしょう」
さらにこう続けた。
「新しい分厚い中間層モデルは多様性の承認でもあります。いろいろな人生、いろいろな生き方があり、それぞれが中間層として経済的安定や社会的承認を得て、幸福を実感しながら生きられる。そんな世界を目指すべきではないでしょうか」