戦国時代に小豪族五人衆のゆるやかな支配が続いていた天草だが、キリスト教が急速に広まり、豊臣秀吉の天下統一の波に呑みこまれていく。迎えた「天正天草合戦」(1589)では加藤清正と一騎打ちに向かう武将木山弾正、妻で天草一の美貌といわれたお京の方らが奮戦する。「武」の歴史だけでなく、布教のため、日本語とポルトガル語の辞書『日葡字書』作りに命をかける人々も登場する。少女時代から苦難が多かった「おせん」もその一人で、
「雨に濡れて、露恐ろしからず」
 という言葉を支えに生き続ける。徳川幕府が誕生した1603年に字書は完成、老いたおせんが入信する場面は美しい。
 松本清張賞を受けたデビュー作『マルガリータ』同様、宗教よりも生き方を問う作品となった。

週刊朝日 2016年11月25日号

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