タワマンといえば現代日本においてはある意味「成功」の象徴だが…(写真はイメージ/gettyimages)
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 住民たちの嫉妬心や劣等感を赤裸々に描いた、タワマン文学が人気だ。露悪的な表現に辟易してしまいそうなものだが、なぜ人々の心に刺さるのか。

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「勝ち組」タワマン住民のハズが…

〈子供には子供らしく健康的に育って欲しいと願いながらも、良かれと思って過酷な受験戦争に送り出し、偏差値という無機質な数字で一喜一憂してしまう。東京というすべてが狂った異常な街で、息が詰まるようなこの場所で、私たちは何を追い求めて消耗しているのだろうか〉

 これは「窓際三等兵」こと外山薫さんの小説『息が詰まるようなこの場所で』(KADOKAWA)の登場人物のひとり、平田さやかの独白だ。

 埼玉県出身のさやかは、大手銀行の一般職として働き、誰もが羨む湾岸のタワーマンション(以下、タワマン)に暮らしている。だが、日々募らせているのは、「不満」だ。

 小学生の息子の中学受験で消耗。会社では同じタワマンに住むキャリア組の女性と自身を比べては落ち込み、無理やり入れられたPTAでは上層階に住むママ友・綾子に劣等感を抱く……。

 高級タワマンを舞台に、そこに住まう“勝ち組”たちが直面する格差、嫉妬、劣等感などを描いた作品群は「タワマン文学」と呼ばれる。

ネガティブなテーマがてんこ盛り

 タワマン文学は、2021年ごろ、Twitter(現・X)のツリー投稿から誕生した。その後、書籍化され、世間の注目を集めるようになった。

 2022年には、麻布競馬場さんが投稿した『3年4組のみんなへ』というショートストーリーが14万6千の「いいね」を獲得し、同作を含む20作品を収録した書籍『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』(集英社)は3万部を記録している。

 誰もが羨むような学歴や職業、生活を手にしながらも、人生に虚無感を抱く者たちの「ひとり語り」で進む物語には、学歴コンプレックス、ママ友カースト、親子関係、受験戦争といった、現代社会のネガティブなテーマがひっきりなしに登場する。

 タワマンに縁がない筆者も憂鬱な気分になるが、なぜかページをめくる手が止まらない。

 なぜ、タワマン文学は人の心に刺さるのだろうか?

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